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『秘密の裏側』

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「秘密の裏側」

構成:相馬杜宇

 

□登場人物

語り

安倍晋三

森まさこ

日本弁護士連合会

福島みずほ

小熊英二

毎日新聞

畠田健治

間宮陽介

佐藤優

東京新聞

官僚

齋藤美奈子

福島県議会

 

 

 

 

沖縄県議会

小森陽一

永井愛

姜尚中

内田樹

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

語り

二〇一三年十二月六日、特定秘密保護法が成立しました。審議時間は六六時間。これだけ聞くと長いように感じるかもしれませんが、消費税の増税に関する審議に二一〇時間掛けたことを考えると、非常に短い審議だったことが分かります。

そして衆議院参議院の特別委員会、本会議をあわせて四回全てが反対の声を押し切っての強行採決だったことも異例の事態でした。

 

安倍首相

内閣総理大臣安倍晋三です。現在、我が国を取り巻く安全保障環境は、非常に厳しい状況にあります。また、アルジェリアでのテロ事件を始め、国際テロ情勢も緊迫しています。こうした状況に対応するためには、関係国から情報収集を行うことが重要です。そのためには、一日も早く、我が国の情報保全体制を関係国から信頼に足るものとする必要がありました。(※1)

 

語り

特定秘密保護法とはどんな法律なのでしょう。日本弁護士連合会のホームページでは次のように説明しています。

 

 

 

 

日本弁護士連合会

特定秘密保護法とは、国の安全保障に関して特に重要な情報を「特定秘密」に指定し、それを取り扱う人を調査・管理し、外部に知らせたり、外部から知ろうとしたりする人などを処罰することによって、「特定秘密」を守ろうとするものです。(※2)

 

語り

特定秘密として、防衛、外交、スパイ行為などの特定有害活動の防止、テロリズムの防止の四つが挙げられています。

 

森まさこ

特定秘密保護法担当大臣の森まさこです。国及び国民の安全にかかわる重要な情報が特定秘密に指定されています。なぜ、こうした情報が特定秘密に指定されなければならないかと言いますと、例えば、テロを行おうとする者に対応策が漏えいした場合、国民への被害がより一層拡大する可能性があるからです。(※1)

 

語り

特定秘密保護法ではテロリズムを「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」と定義しています。(※3)

 

福島みずほ

社民党福島みずほです。主義主張に基づいて他人になにかを強要するのがテロリズムなら、なんでもテロリズムになります。(※4)

 

森まさこ

あ、最初の「又は」は「かつ」という意味で、「政治上」から「殺傷し」までを一つ続きで読みます。ですから、(強調して読む)政治上その他の主義主張に基づき国家若しくは他人にこれを強要し又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。(※5)

 

語り

しかし自民党石破茂幹事長は、政治上の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要しようとしている国会周辺デモは、「テロ行為とその本質においてあまり変わらない」と語っています。

 

 

 

 

 

小熊英二

社会学者の小熊英二です。法律を運用する可能性のある政治家の方が、非暴力でのデモンストレーションをテロと同一視するような感覚でいるとすれば、運用にたいへんに不安が残ると言わざるを得ません。(※6)

 

安倍首相

石破氏は「不適切で誤解を与えた」と謝罪しました。われわれは、こうした誤解を与えないようにしなければなりません。(※7)

 

語り

このように、何が「特定秘密」に当たるのかが曖昧で、その気になれば恣意的に運用できる余地が多くあります。

 

安倍首相

一般の方の生活にはまったく影響はありません。特定秘密は厳格に管理されますので、一般の方が、偶然触れることはあり得ません。何が特定秘密に指定されているか知らない人が、この法律により責任を問われることは一切ありません。(※8)

 

福島みずほ

福島みずほです。罰則の対象は実際に秘密を漏らした人だけではなく、共謀、扇動、教唆、つまり秘密を暴こうと話し合ったり、教えて欲しいと持ち掛けたり、秘密を明らかにしようと呼びかけたりした人にも及びます。だから、ものすごく範囲が広いんです。一般の人が罪に問われる可能性もあります。そして、特定秘密を洩らしたときは、十年以下の懲役が課せられます。(※4)

 

語り

さらに、もし逮捕されて起訴されたら、裁判が公正に行われないかもしれません。

 

毎日新聞

毎日新聞です。政府はこれまで、特定秘密を漏らしたり、入手しようと試みたりした人物が起訴された場合、法廷で秘密の内容を明かさず、秘密に指定された手続きやその種類、指定の理由などから立証できると説明していました。しかし法案検討時に、警察庁法務省がこれを困難と指摘していたことが、警察庁の開示した文書で明らかになりました。憲法が定める裁判公開原則との整合性についても結論が先送りされていますし、この法律が司法制度との間に矛盾を抱えたまま成立した実態が浮かび上がっています。(※9)

 

 

 

 

畠田(はたけだ)健治

大阪弁護士会の畠田健治です。特定秘密保護法憲法や司法制度との整合性を考えず、拙速に作られたことが改めて露呈しました。裁判所はただでさえ行政や検察の判断を重視する傾向がありますが、特定秘密保護法が施行されると、裁判の公正さが一層損なわれる恐れがあります。(※9)

 

語り

この法律は恣意的に運用できる余地が多くあります。

 

間宮(まみや)陽介

京都大学の間宮陽介です。「善意」の政治家は、悪用なんてありえない、秘密保護法はあくまでも国家および国民の安全、皆さんの安全を確保するための法律だと言うでしょう。しかし法律の運用が政治家個人の善意をよりどころとすれば、それはもはや法律ではありません。重要なのは悪意の政治家が現れたとしても、法律がその悪意に耐えられるかどうかです。(※10)

 

安倍首相

首相をはじめ、複数の異なる立場の人間が秘密の管理に関与いたします。秘密の取り扱いの透明性はむしろ増すものと考えています。(※7)

 

語り

特定秘密は約四〇万件と言われています。

 

安倍首相

特定秘密の九割は衛星写真です。一枚一枚チェックするものではありません。(※7)

 

語り

残り一割でも四万件です。忙しい首相がチェックできるでしょうか。

 

安倍首相

暗号は古いものから新しいものまで秘密になります。あと、戦車や艦船などの鋼板の厚さや、装備した武器の命中精度など無数の秘密があります。これらを除くと、首相がチェックすべき秘密はかなり少なくなると思われます。(※7)

 

 

 

 

佐藤優(まさる)

元外交官の佐藤優です。安倍さんは自分でチェックすると言っていますが、そもそも首相は特定秘密に触れられない可能性があります。特定秘密を扱う人間は適性評価を受けることになっていますが、(※4)

 

語り

政治家は適性評価の対象外です。

 

佐藤優

情報機関の間では「適性評価を受けていない人間には情報を回さないでね」という約束になります。それでも官僚にとって当たり障りのない情報は公開されるかもしれませんが、不都合な情報は首相に対しても隠される可能性が否定できません。その結果、正しい政治判断ができなくなる恐れがあります。(※4)

 

福島みずほ

福島みずほです。ちなみに適性評価は精神疾患の有無、借金など経済状況、交際関係、飲酒の節度など七項目にわたる個人情報を調べるもので、実施主体は行政、実質的には警察となっています。このこと自体も警察の権限拡大につながる危険があると言われています。(※4)

 

安倍首相

特定秘密の指定や解除の妥当性をチェックする委員会を内閣官房に、公文書の管理をチェックする独立性の高い第三者機関を内閣府に設けます。(※7)

 

東京新聞

東京新聞です。安倍晋三首相らが法案採決直前に挙げた案の一つが、内閣官房に設置する「保全監視委員会」。メンバーは省庁の次官クラスの職員が中心となっています。身内によるチェックの効果は疑問です。これとは別に、第三者機関として内閣府には「情報保全監察室」を設置するとしています。これも官僚で構成され、役割や権限も不明です。チェック機能は「骨抜き」になる恐れが強いと言えるでしょう。(※11)

 

語り

他にも秘密保護法の運用基準に関する有識者会議「情報保全諮問会議」というのもあります。初会合の中で座長の渡辺恒雄氏は、特定秘密保護法を「恣意的な拡大解釈、乱用を二重三重に縛ってある」と評価しています。ちなみに、これら全ての会議の議事録は公開さ

 

 

 

れていません。特定秘密の運用についても秘密にされたのでは、私たちはどうやって政府がやっていることの良し悪しを判断するのでしょう。知る権利は本当に守られるのでしょうか。

 

安倍首相

特定秘密は原則三〇年で解除されます。内閣の承認を得て秘密指定が継続されても、暗号や情報源など七項目の例外を除いて、六〇年以上は継続されません。(※7)

 

福島みずほ

福島みずほです。「特定秘密」は、勝手に廃棄されないようにきちんと保全しておく必要がありますが、法律には、そのことがまったく書かれていません。全く書かれていないということは開示する前に廃棄される恐れもあるということです。担当の官僚に「開示する前に廃棄したらどうなるか」と聞きました。すると、(※4)

 

官僚

廃棄されたら仕方ないですね。(※4)

 

 

齋藤美奈子

文芸評論家の齋藤美奈子です。第一原発の事故の際、SPEEDIの情報が官邸に上がらなかったように、現在でも官庁が隠している情報はいくらでもあります。まして情報を漏らした公務員には厳しい罰則が待っているんです。私が官僚だったら、怖くて何も出しませんよ。閣僚がごねたら「大臣、それは特定秘密ですが」って。(※12)

 

語り

福島県議会は法案審議に入る前の一〇月九日、「特定秘密の保護に関する法律案に対し慎重な対応を求める意見書」を可決しました。

 

福島県議会

今、重要なのは徹底した情報公開を推進することであり、刑罰による秘密保護と情報統制ではない。「特定秘密」の対象が広がることによって、主権者たる国民の知る権利を担保する内部告発や取材活動を委縮させる可能性を内包している本法案は、情報隠蔽を助長し、ファシズムにつながるおそれがある。もし制定されれば、民主主義を根底から覆す欠陥のある議決となることは明白である。(※13)

 

 

 

 

 

語り

福島だけではありません。

 

沖縄県議会

沖縄県議会です。米軍基地と隣り合わせで生活する沖縄は、秘密の対象となる「防衛秘密」や「外交秘密」と深くかかわり、影響を最も受けやすい地域です。県民がみずからの生命、財産を守るための実態把握さえもできなくなり、憲法で保障された権利が制限されることになります。情報は国民の財産であり知恵です。今、重要なことは徹底した情報公開を推進することであり、刑罰による秘密保護と情報統制ではありません。(※14)

 

安倍首相

皆様の不安、懸念があることも承知しております。しかし、国家安全保障会議の審議をより効果的かつ効率的に行うためにも、秘密保護に関する共通ルールを整備し、安全保障上の秘密情報を統一的に取り扱うための枠組みを確立することは不可欠なのです。(※1)

 

語り

国家安全保障会議とは、外交や安全保障政策について話し合い、決定していく機関です。

 

安倍首相

アメリカをはじめ、多くの先進諸国に設置されています。安全保障政策のいわば司令塔となるものです。(※1)

 

語り

日本では首相、内閣官房長官外務大臣防衛大臣の四人で構成されています。

 

佐藤優

佐藤優です。この四人が日本が戦争するかしないかを決めるんです。(※7)

 

福島みずほ

福島みずほです。自民党日本国憲法改正草案には戦争を開始するときの規程がないんです。だから戦争をする際、国会の事前承認を必要としていません。つまり、この国家安全保障会議で戦争開始を決めることになるのです。(※7)

 

語り

国家安全保障会議は二〇一三年の十一月二七日にすでに成立しています。

 

 

 

 

小森陽一

文学者の小森陽一です。国家安全保障会議特定秘密保護法が成立したことで、今後は閣議決定だけで、今まで許されていなかった自衛隊の海外での武力行使が決まり、行われて、国民には事後報告しかされません。政府が、行政権力や司法権力や立法権力が、何をしようとしているのか、憲法に違反していないかどうかを判断する権利が一切踏みにじられようとしています。(※6)

 

語り

さらに十二月一七日に閣議決定した国家安全保障戦略では、「諸外国やその国民に対する敬意を表し、わが国と郷土を愛する心を養う」と明記されています。

 

永井愛

劇作家の永井愛です。なぜわざわざ外交や安全保障の指針に愛が必要なのか、ものすごく違和感があります。「国を愛する」の主語は、政府なのか、国民なのか。指針によって国民の義務になるのか。これほど曖昧では、いかようにも解釈できてしまいます。そもそも愛国心の定義や表現方法はさまざまなのに、統一の価値を押しつけるのは大変危険です。愛国心の強制は、独裁国家の常套(じょうとう)手段でした。「なんか変だけど、仕方ない」と黙って従っていると、行き着く先は恐怖政治になりかねません。(※15)

 

姜(かん)尚(さん)中(じゅん)

政治学者の姜尚中です。今年の通常国会では国家安全保障基本法が審議される予定です。これは集団的自衛権、国民や自治体の義務、武器輸出に関する条文などがあり、平和主義を基本とする憲法自体が事実上否定されます。(※16)

 

内田樹(たつる)

思想家の内田樹です。次の国政選挙まであと二年半あります。多くの人たちは前の民主党政権に対してしたように「自民党が暴走したら、選挙でお灸を据える」ということができると信じているようです。僕はそこまで楽観的になれません。次の選挙までに日本を戦闘の当事者とする戦争が始まってしまったら、その結果、国内外で日本人を標的とするテロが行われるようなことがあったら、もう次の選挙はこれまでの選挙のような牧歌的なものではありえないからです。そして、現在の自民党政権は彼らの支配体制を固定化するシステムが合法的に、けっこう簡単に作り出せるということを、特定秘密保護法の成立過程で学習しました。安倍政権にこれ以上の暴走を許さないという国民の決意は「次の選挙」ではなく、今ここで、ひとりひとりの現場でかたちにする他ないと僕は思っています。(※17)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○引用・参考資料

※1

首相官邸:特定秘密の保護に関する法律

http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2013/headline/qanda.pdf

 

※2

日本弁護士連合会:秘密保護法とは?

http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/secret/about.html

 

※3

朝日新聞特定秘密保護法の全文

http://www.asahi.com/articles/TKY201312070353.html

 

※4

特定秘密保護法案 徹底批判(佐藤優×福島みずほ

http://blogos.com/article/75169/

 

※5

社説:秘密保護法案 参院審議を問う テロの定義(二〇一三年一一月二九日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20131129k0000m070123000c.html

 

※6

内田樹の研究室:一二月三日の「特定秘密保護法案に反対する学者の会」記者会見

http://blog.tatsuru.com/2013/12/04_0936.php

 

※7

安倍首相単独インタビュー 特定秘密保護法案への批判、疑問に答える

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20131206/plt1312061810002-n1.htm

 

※8

自民党特定秘密保護法 ―3つのポイント―

https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/141_1.pdf

 

※9

毎日新聞(二〇一四年一月二七日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140127-00000005-mai-soci

 

 

 

※10

『世界』NO.852「国家自由主義への道」

 

※11

東京新聞:どうなる日本Q&A 施行前、再び意見公募

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/list/CK2014010102000144.html

 

※12

東京新聞(二〇一三年一一月六日)「本音のコラム」

 

※13

福島県議会

http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/2/2509iken01.pdf

 

※14

沖縄県議会:特定秘密の保護に関する法律制定の慎重審議を求める意見書

http://www.pref.okinawa.jp/site/gikai/documents/h2511iken.pdf

 

※15

東京新聞(二〇一三年一二月一四日)

 

※16

『AERA』二〇一四年一月一三日

 

※17

内田樹の研究室:「街場の憂国論」号外のためのまえがき

http://blog.tatsuru.com/2013/12/11_0921.php