劇作家相馬杜宇のOfficialBLOG

32歳、脳出血発症中!劇作家の相馬杜宇がホッピー、コンテンツSEO、病院の不可解さについて語るブログです。

【台本赤ペン先生presents】実際の台本添削の現場をドッキリ生公開しちゃいます!

 

f:id:aiba-yamaguchi:20170611160110j:plain

貴重映像】台本添削の生の場面を全部公開します!

 

福岡教育大学からお申し込みいただいた学生さんです。これまで執筆活動をしていたものの、周囲の方には月並みな印象だと言われがちでした。次のステップとして、より質の高い戯曲を希望されて、お申し込みいただきました。
弊社では独特の文体をお持ちでいらっしゃることを前向きに評価。ベタな展開をベタとして面白く表現することをアドバイスさせていただきました。
一口に台本添削と言っても、どんな添削を受けるのか分からない部分は多いと思います。
そこで、お客様からのご厚意により、戯曲を全文公開することにいたしました。
台本作りの参考にしていただけますと幸いです。

 

ヒットマンのしあわせ  作 柴山侑豊

 

→シンプルで良いタイトルですね。続きが気になります。

・マシュー 42歳。映画「Matthew」の主人公。クールで孤独な凄腕の殺し屋。イギリス出身。

・時枝ゆき 42歳。シングルマザーの脚本家。

・時枝浩 16歳。時枝ゆきの一人息子。映画マニア。

・時枝栄治 45歳。時枝ゆきの兄。警察官。

・時枝尚子 45歳。時枝栄治の妻。専業主婦。

・ジャンルカ 65歳。映画「Matthew」の登場人物。今は衰退したマフィアのボス。

・ソフィア 35歳。映画「Matthew」の登場人物。マシューと肩を並べる女殺し屋。ロシア出身。

・ベニート 48歳。映画「Matthew」の登場人物。敵マフィアのボス。

・フランク 25歳。映画「Matthew」の登場人物。ベニートの部下。

・ミルコ 25歳。映画「Matthew」の登場人物。ベニートの部下。

・冨樫 年齢不詳。映画の神。映画と現実を結びつける存在。

 

 

 

 

シーン1 孤独なヒットマン

 

 幕が上がる。舞台の端っこに冨樫。冨樫にのみ照明。

 

冨樫    やあやあ皆様、本日はお集まりいただきありがとうござぃます。え、いきなり出てきてなんだって?すみません。始まる前にちょっぴり前フリと言うことでお話させてください。あ、ちなみに私の名前は冨樫、と言います。以後お見知りおきを。

 

 少しの、間。

 

冨樫    あれ、さっさと始めろって顔してますね?わかりました。これから始まるお話は、現実には絶対起きないけど、起きちゃった話。確かになじみのないことかもしれませんが、自分の身の回りに起こったらと想像して見てくださるとコレ幸いでございます。えー、昔昔、と言っても1ヶ月くらい前なんですが、「Matthew」という映画が公開されました。皆さまの記憶にも新しいことと思います。え?知らない?仕方ないですね。では「Matthew」を知らないというお客様に向けてご説明しましょう。

→楽しそうな幕開けです。なぜか超イケメンの青山円形劇場を想像しました。

 

 明るくアップテンポなBGMが流れ始める。照明の雰囲気が変わる。音楽に乗って、映画の登場人物た

ちが出てきたりする。

 

冨樫    2017年3月、全国公開された映画「Matthew」はイタリアのアトラーニという街を舞台にした殺し屋映画だ。マフィア、麻薬密売、暗殺、美しい田舎町の裏では様々な犯罪が横行していたのである。

☆フランク ボス!

☆ミルコ  ボス!

ニート  騒がしいぞ二人とも。どうした。

フランク  トニーのヤツが例の物をもっていきやがった。売れば一万ユーロにもなる代物だ。

→一万ユーロにもなる」という表現、物価を説明させずに、自然と大金になることを説明させる仕掛け、巧みだと思います。

ミルコ   ヤツは自分だけ儲けようって魂胆だ。俺たちも舐められたもんだぜ。

→味わい深い表現だと思います。その際に「普通は表現しない」ことを逆手に取るように笑いに向けてステップさせる工夫がさらに良いと思います。

ニート  クソ、舐めた真似しやがって。フランク!ミルコ!今すぐトニーを見つけ出して物のありかを吐かせろ。そして言っておけ。世界の名画モナリザが微笑んでもこのベニート様はカンカンだってな。

☆フランク イエッサー!

☆ミルコ  イエッサー!

冨樫    ベニートはアトラーニの町を牛耳らんとするマフィアのボスだ。そんな彼には宿敵が居た。敵対するマフィアのボス、そしてアトラーニの町のボス、ジャンルカだ。

 

 ジャンルカ、登場。

 

ジャンルカ ベニート、なんだそのションベンたれたガキみたいな顔は。

ニート  ジャンルカ!いつまでもデカい顔してられると思うなよ。お前を潰し、アトラーニを俺のシマにする。

ジャンルカ ふっ、お前にそれができるかな。

ニート  老いぼれが何をぬかす。もうお前のファミリーは誰も残っていない、つぶれたも同然だ。お前もローマ帝国のように滅びる運命にあるのさ。

ジャンルカ 確かに俺だけならつぶれたも同然。だが俺にはヤツが付いている。マシュー!

 

 マシュー、登場。

 

冨樫    出ました!彼こそがこの映画の主人公マシュー!孤独を愛するクールな凄腕の殺し屋だ。その完璧な仕事ぶりからボス、ジャンルカの右腕的存在。拳銃、機関銃、ナイフ、どんな武器でもお手の物!例えどれ程危険な依頼でも彼は完璧にこなした!

→細かいことですが、今はやや説明的ですね。「とは言え、語られる内容は全て説明のため、楽しませる工夫が大切です。

また「クールな殺し屋」であるという設定、、誰かに規定されているのか、自分がそう思っているのか、どちらでしょうか?

ちょっと難しい言い方をすれば、以下のことが挙げられます。

・厳密には自意識の上ではそう思い込もうとして、実際はミスマッチが生じている。

・本人はそう思っていないが、周囲ではそう思っている。

さらに言えば、AさんとBさんはクールに振る舞っているものの、Cさんは異なることも考えられます。つまり、関係性が変化することで、ドラマが生まれるのです。

 

狂言回しには現在の時間軸が止まってしまうデメリットがあります。

舞台ならではの設定にするならば、プラスアルファの部分が必要です。

・時間軸が加速させる。

狂言回しとして徐々にズレを生じさせる。

情報提示が簡単だからと、ノッキングを起こしてしまうことがあるため、注意が必要です。

なお、狂言回しの成功例として、鄭義信の『焼肉ドラゴン』が挙げられます。いずれも時間軸を変える、加速度を変化させるなど、様々な工夫が見られます.。

 

ジャンルカ マシュー仕事だ。商売の邪魔をするハエ共を潰せ。わかったな。

マシュー  あぁ。

 

 フランク、ミルコ、武器を構えている。

 

フランク  くそ!ヤツはどこだ!

ミルコ   後ろをとられるな!暗闇はヤツの得意なフィールドだ!

 

マシューを警戒する二人。と、そこにマシューが忍び寄る。マシューはフランクのもとに近寄り、ナイ

フで喉をカッ切る。

 

フランク  ぐわああああああああ!!

ミルコ   フランク!ちくしょう、ぶっ殺してやる!

 

 恐怖のあまり、ワーワーと喚いているミルコ。するとその口の中に銃口が。ピタッと鳴き止むミルコ。

 

マシュー  アディオース。

 

 銃声。

 

冨樫    ナイスショット!敵に指一本も触れさせずバッタバッタとなぎ倒していく様、まさに神業!だが、そんな敵なしの彼に忍び寄る影が?映画ではおなじみ、ライバルキャラの登場かぁ~!?

ニート  マシュー、貴様はこざかしい害虫だ。虫は無視すると言いたいが、お前は潰す。最強の刺客を用意した。お前と肩を並べる、ロシア人の殺し屋だ。

→独特な表現ですね。

あえて気取った言い方をすることで、笑いを転化させるのも一案です。

→本当の殺し屋という設定だとしたら何「もし本当にあったら?」と考える事が大切です。たまたまプロの殺し屋を見たことがありますが、トップシークレットで、静かに業務を遂行しているのだそうです、

これはフィクションだと分かっていますが、本当の殺し屋は何を思い、どんな言葉を発するでしょうか?

一度立ち止まって考えてみても良いと思いました。

 

☆フランク 恐ろしや!

☆ミルコ  恐ろしや!

全員    こうご期待!!!!

 

 冨樫以外、ストップモーション。

富樫以外ストップモーションの部分で本音を語る場面があり、本音を吐露するシーンをよく見掛けます。確かに便利なのですが、観客はずっと説明を聞いていなければなりません。やや都合が良いと思わないための、ドキドキさせる内容が不可欠です。

冨樫    ・・・という壮大な予告編を作っておいてあれですが実はこの映画、クソほど人気がない。だいたい予告編が面白い映画って、全部見た後に「予告編が一番面白かったね」ってなるんですよね。観客動員数は公開1週目で前代未聞の200人。っはーすごいね、全国公開されてて200人ですって。この映画の敗因は大きく分けて2つ。ひとつ、イタリアを舞台にした映画なのに日本人が演じているチープさ。こんなに鼻が低いイタリア人見たことない。ひとつ、ナニとは言わないが名作殺し屋映画の二番煎じ感が強い。まぁそんなこんなでこの映画のレビューは大荒れ。俗にいう大コケという事態に陥ったのであります。

 

冨樫以外退場。ゆき、登場。

 

冨樫    しかし、こんなゲロムービー目当てに来る奇特なお客様も居るもので。彼女の名前は時枝ゆき。42歳のシングルマザー、映画の脚本家である。

 

 ゆき、客席を向いていい笑顔。キラーン。

 

冨樫    その日のお客さんは彼女だけだった。新作脚本のネタ集めのためにやってきた・・・

      と言うのは表向きで、実際はマシュー役の俳優の顔がちょっと好みだったからという

      あまりにも身も蓋もない動機だった。しかし、そんな彼女に事件は起こった。

ゆき    早く始まんないかなぁ。あ、始まる?・・・あ、映画泥棒か。すごいなぁ、キレッキレ。ちょっと気持ち悪いな。あ、今度こそ!

 

 暗くなる照明。映写機がカタカタ回る音がする。すると、突如辺りはまばゆい光に包まれる。

 

ゆき    え、ちょっとなにこれまぶしい。キャー!

 

 光最高潮に達したところで暗転。

→何かタイムスリップした仕掛けが欲しいところです。

 照明つく。手で顔を覆っているゆき。その横にマシューいわゆるルール付けですね。

る。これは特殊な光であるとか…

 

ゆき    もう、なんなの・・・え?

 

 ゆき、マシューに気づく。

 

ゆき    きゃあああああああ!ひ、人が。

→ベタにはベタで応戦すると良いと思います。

マシューが必死になり、人間であることを証明しようとして、何とか信じてもらうなど。

 その声に飛び起きるマシュー。あたりを見回す。ゆきに気づく。とっさに銃を構える。

少しの、間。銃を下すマシュー。

 

ゆき    撃たないんだ。

マシュー  女と子供は殺らない。

ゆき    あ、そうなんだ。

マシュー  おい。

ゆき    あ、はい。

マシュー  お前、何人だ?

ゆき    え、えっと・・・日本人ですけど、普通に。

マシュー  日本人だと?ここはイタリアだぞ。

ゆき    こ、ここは日本ですよ、紛れもなく。

マシュー  なんだと?

 

 マシュー、舞台後方を見る。そこにはスクリーン(銀幕)が広がっているイメージ。

 

マシュー  銀幕・・・ここは映画館か。

ゆき    えぇ。

マシュー  なぜ映画館に。俺は確かにジャンルカのもとへ向かおうとしてたはずだ。仕事を受けに

・・・まさか!映画の中から出てきたのか?ここは・・・現実?

ゆき    ね、ねぇ。

マシュー  なんだ。

ゆき    あなた、ひょっとしてお名前マシューって言うんじゃないですか?

マシュー  あぁ、そうだ。

ゆき    殺し屋、なんですよね?

マシュー  どうしてそれを。

ゆき    これ、あなたですよね?

 

 ゆき、「Matthew」の映画ポスターを見せる。

 

マシュー  ・・・確かに俺だ。それじゃあ、やっぱり。

ゆき    映画の中から出てきたってことですか?

マシュー  本当に出てきたのか。そんな映画みたいなことが。俺が言うのもおかしいか。

 

 マシュー、映画の中に戻ろうと銀幕に体当たりするマイム。しかし映画には戻れない。

 

→冷静に考えるとコントのようです。あえて笑いを求めるのもアリだと思います。

 

 

マシュー  だめか。

ゆき    お家、帰れないんですか?

マシュー  俺の家はこの銀幕の中だ。

ゆき    あのー、もし、帰る場所がないようでしたら、うちに泊まっていきます?

マシュー  えっ。いや、それはダメだ。

ゆき    別にいいですよ、うち私と息子だけだし。

→なぜゆきと息子だけだと思ったのか少し気になりました。

 

それに、映画の世界から出てきた人と話せるなんて、なんかすごいし。

マシュー  ちょっと待ってくれ、俺は行くとは一言も。

ゆき    映画の中の話、聞いてみたいし。もとに戻る方法ならまたあとで考えればいいんだから、さ、いきましょ。

冨樫    これが二人の出会いだ。突如映画の世界から飛び出したマシュー。飛び出した、というよりも、私が呼び出した?あ、これ以上はネタバレになるのでこの辺で。

 

 音響イン。

 

冨樫    この物語は、全く違う世界を生きた二人の邂逅から始まります。この二人の運命は、そしてマシューを狙う殺し屋とは。それは最後まで見てのお楽しみ。こうご期待。

 

 

 

ここからは演出の希望であるが、やれたらタイトルコールをやりたい(やれないorやりたくない

ならやらない)。

 マシュー、ゆき、冨樫以外の役者も登場。全員でタイトルを言う。

 

福岡教育大学演劇部2017年度春公演

ヒットマンのしあわせ」

 

というのをやってみたいという希望(この辺は全く固まってないので、もしこの脚本が採用されたらま

た考える)。

 

舞台の中央にマシュー。照明が当たる。客席に向けて銃を構える。

銃声と共に暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン2 危険な任務

 

 映画の世界。葉巻を吸っているベニート。両サイドについているフランク、ミルコ。ミルコは灰皿を持っている。

 

ニート  フーッ(葉巻の煙をフランクに吹きかける)。

フランク  ううっ。

ニート  じゅー(葉巻をミルコの体に押し付けて消す)。

ミルコ   あちっ!

ニート  ・・・よし。

フランク  オーケイ。ボス、俺たちを直々に呼び出して、一体なんの用だい?

ミルコ   フランク、ボスが俺たちに声をかけるってことは、きっと何かデカいことをたくらんでいるにちがいない。

フランク  フォー。ボスがこの俺を必要としてくれているなんて。ローマ法王とキスを交わすより光栄だね。

ニート  黙れドテカボチャ共。

☆フランク イエッサー!

☆ミルコ  イエッサー!

ニート  あまり調子に乗るな。ドテカボチャは本来外に寝っ転がらせておくものだが、お前たちに一つ聞こう。この街のボスにふさわしい男は誰だ?

ミルコ   ボス、何を聞くかと思えばそんなことかい。

フランク  そんなの決まっているだろう。我らがボス、ベニート。あんただよ。

ニート  では何故俺はまだ頂点に立ててない。

ミルコ   ジャンルカのジジイがデカい顔してるからさ。

フランク  そして奴には闇の掃除人マシューが付いてる。ヤツが居る限り誰も手出しができない。

ミルコ   俺そいつの写真をみたことあるぜ。殺しの腕だけじゃなく、見た目も相当男前だ。

ニート  俺と比べたらどっちが上だ、ミルコ。

ミルコ   怒らないと約束してくれるかい?

ニート  約束しない。怒りたい時に怒る、笑いたい時に笑う、それが俺のモットーだ。

ミルコ   ボスの圧倒的大勝利だよ。

ニート  気分がいい。

フランク  それで、そのマシューがどうしたってんだい?

ニート  あぁ、最近ヤツの目撃情報がパタリと消えた。この町に潜んで大人しくしているのか、外に逃げ出したか、それは俺にもわからん。そこでだ。奴の居所を見つけ出し、始末するという任務を与えたい。それが貴様らにできるか?

ミルコ   ボス、それは一歩間違えば奴に殺される危険があるってことだね?

ニート  そういうことだ。相手はあのマシューだからな。だが俺のために自らの命を犠牲にできるドテカボチャが、この中にいるかな?

ミルコ   ・・・決まりだフランク。この任務は俺一人で引き受ける。

フランク  なぜだ?

ミルコ   お前には愛する人がいる。お前が死んだら彼女が悲しむ。

フランク  ・・・ミルコ、もう一つ決まったことがある。

ミルコ   なんだ。

フランク  その任務、俺も一緒に引き受けるってことだ。

ミルコ   正気かフランク!

フランク  ボス、俺が危険な任務だからと言って、怖気づくようなチキンだと思ったかい?

ミルコ   お前にはキュートなベロニカがいるじゃないか!

フランク  ミルコ、訂正をお願いしたい。キュートでセクスィだ。あとベロニカじゃなくてヴェロニカだ。下唇を噛め。

ミルコ   あぁ、確かにキュートでセクスィだ。ただそのヴェロニカにはどう説明するのさ!

 

 フランク、ミルコにシャラップというように手をかざす。

 

フランク  もちろん説明はするさ。お前はあの暗闇の悪魔、マシューを殺した英雄のフィアンセになるんだってな。

ニート  いいのか?フランク。

フランク  ボス。俺はあんたのためなら命を懸ける覚悟さ。それに、親友を一人危険にさらすわけにはいかないだろう?

→やや説明的です。説明的にならないコツは台詞を細切れにすることです。

【例】

フランク 命をかける覚悟さ。

ニート どうして?

フランク だって親友が、

ニート 親友?

フランク 危険にさらすわけいかないだろう?

なお、蛇足ですが、助詞(てにをは)を抜くとこなれた言い回しが出来ます。

ミルコ   フランク、お前は最高の・・・バカヤロウだぜ!

☆フランク HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAH!!!!!!!!!!!!

☆ミルコ  HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAH!!!!!!!!!!!!

ニート  よし、そうと決まれば早速取り掛かれ!

☆フランク イエッサー!

☆ミルコ  イエッサー!

 

 二人、退場。反対側からサングラスをかけたソフィアが入ってくる。

 

ソフィア  やる気満々ね。でも彼らにできるの?

ニート  できるわけないだろう。ああやって遊ばせているのさ、暇つぶしにはちょうどいい。

ソフィア  嫌な人。私にやらせてくれないの?

ニート  もちろん君の仕事だ。何のためにロシアから呼んで雇ったと思ってるんだ。

ソフィア  それもそうね。

ニート  向こうはどうだった。

ソフィア  久々の故郷は楽しかったわ。夜のモスクワはいい男もたくさんいた。

ニート  俺と比べたらどっちが上だ。

ソフィア  余計な干渉はよして。仕事とプライベートは分けてるの。

ニート  そうか。

ソフィア  でも、モスクワもいいけど、ここの方が故郷って感じがするわ。いい街ね、アトラーニは。

ニート  ああ、もうじき俺のものになる。君の仕事には期待してるよ、高い金を払ってるんだからな。

ソフィア  任せて。それに私も早く会いたいわ。ライバルに。町一番の殺し屋の座は私がもらう。

ニート  めすおすを決する時も近いな。

ソフィア  ボス、それを言うなら「雌雄を決する」じゃない?

ニート  細かいことはいい。とにかく君は俺の言うとおりにさえしていろ。長い者にはまかれろ、ってな。

 

 ベニート、退場。

 

ソフィア  歴史的大バカ野郎ね。

 

 ソフィア、退場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン3 やさしい家族

 

 現実世界。ゆきの家。日曜の朝。筋トレをしているマシュー。そこへやってきて、一緒に筋トレを始める浩。しかし数回でばてる。

 

浩     あーだめだぁ。

マシュー  なんだ、もうばてたのか。

浩     マシューみたいにはできないよ。どうしてそんなにすいすいできちゃうんだよ。

マシュー  こういうのは日々の積み重ねだ。役者になりたいなら鍛錬を怠るな。

浩     役者に筋トレは必要ないよ。いるのは演技力と記憶力さ。

マシュー  そんなことはない。シュワルツェネッガーも日々の鍛錬があって、あの痛快なアクションができるんだ。

浩     あんなガチムチにはなりたくないよ。

 

 マシュー、筋トレを始める。

 

浩     殺し屋ってそんなに筋肉いるの?

 

 ぶつくさ文句を言いながら筋トレをする浩。そこへやってくるゆき。

 

ゆき    あら、トレーニング中?

浩     母さん、もう疲れたよ俺。

ゆき    あはは。まだまだマシューには追い付けそうにないわね。マシュー、ちょっといい?

マシュー  どうした?

ゆき    新しい脚本のプロット。ちょっと読んでくれない?

マシュー  あぁ、いいよ。

 

 ゆき、マシューに脚本のプロットを手渡す。

 

マシュー  今度はどんなのを。

ゆき    ちょっと前からチマチマ書いてたんだけどね。こう、キュンってするようなラブストーリーにしたいな、って。

マシュー  ラブストーリー。この始まり方、どっかでみたことある。

ゆき    あ、気づいた?

マシュー  「ローマの休日」か?

ゆき    そう!よくわかったわね。

マシュー  あれはいい映画だな。何度も見た。

浩     あ、それ俺も好き!オードリー・ヘプバーンが美人だよね。

マシュー  あぁ、オードリー・ヘプバーンは天才だよ。

ゆき    映画の中にも映画ってあるのね。なんか不思議。

マシュー  休みの日はいつも映画館に通ってた。「風と共に去りぬ」「素晴らしき哉、人生!」「若草物語」どれも最高だった。

ゆき    ホント好きよねクラシック映画。なんかうちの浩ちゃんににてるね。ま、どっかの誰かさんは、平日学校を抜け出して映画を見に行ったりしてるけど。

浩     ぎく。

ゆき    あんた、また授業をサボったでしょ。担任から連絡があったわよ。

浩     母さん、俺にとっては映画を見るのも勉強さ。一流の俳優になるには一流の演技を見て盗まなきゃ。

ゆき    それよりもちゃんと脚本が読めるように国語の成績を上げるのが先じゃないの?

浩     俺はハリウッドを目指してるから、国語よりも英語をしなきゃいけないんだよ。

ゆき    その英語で赤点取ったのはどこの誰かなー?これじゃハリウッドに行っても、回ってくるのは死体役ばっかね。

浩     ・・・プロの死体になるよ。

マシュー  ゆき。このシーンだが、逃げ出した資産家令嬢が公園にたどり着く、そこにたまたま居合わせた殺し屋・・・って、この脚本には殺し屋が出てくるのか?

ゆき    ええ。前から書いてみたかったのよ、殺し屋のラブストーリー。全く違う人生を生きてきた二人、出会ったことで運命が変わる。実らない恋かもしれない、でも二人は愛し合うの。狂った運命に翻弄されるように。素敵でしょう。

マシュー  殺し屋は恋をしたりはしない。

ゆき    そう?「LEON」だって最後には愛してるって言ったわ。愛は何よりも強い、誰にも止められないのよ。

マシュー  俺にはわからん。そもそも日本に殺し屋がいるの

→やや説明的ですね。もっとショートに理解できれば良いのですが…

ちなみに、どこで世界観を理解させ、情報提示するかはとても重要です。

必要なこと、必要ではないことは住み分ける癖をつけましょう

ゆき    映画の中だからいいのよ。

浩     ねぇ母さん。この女の人と殺し屋って、母さんとマシューのこと?

ゆき    ち、違うわよ!もとからこういう話にしようと思ってたの。

浩     ほんとかなぁ?母さん、マシューが来てから書くの早くなったよね。やっぱり意識してるんじゃないの?

ゆき    マシューが、家のこと手伝ってくれるからよ。

 

 その時、ピンポーンとインターホンが鳴る。

 

ゆき    あ、誰かしら

浩     俺、見てくる。

 

 浩、退場。

 

ゆき    あ、そうだ。マシュー、もう仕事は見つかったの?

マシュー  あ、あぁ。一応な。

ゆき    そっか、よかったわね。何の仕事になったの?

マシュー  接客業さ。

ゆき    へぇ、接客かぁ。頑張ってね、お仕事。

マシュー  ああ。君に食わせてもらうばかりじゃ悪いからな。

ゆき    気にしなくていいのに。余裕があるって言ったらウソだけど、私も人並みには稼げるし。でも、見てみたいな、マシューが仕事してるとこ。

マシュー  人に見せるようなものじゃないさ。

 

 その時、照明が変わる。銃を持ったジャンルカがやってくる。

 

ジャンルカ マシュー、仕事だ。ハエ共を潰せ。

マシュー  !

 

 銃をマシューに渡そうとするジャンルカ。一瞬暗転。照明つく。マシュー、明らかに顔が青ざめている。

訝しむゆき。

 

ゆき    マシュー、どうしたの?

マシュー  ・・・いや、なんでもない。

 

 浩と尚子が入ってくる。

 

尚子    こんにちは、ゆきちゃん。

ゆき    あ、尚子さん。久しぶりねぇ。どうしたの?急に。

尚子    どうしたもこうしたもないわよ。会いに来たのよ、あなたたちと、例の彼に。

ゆき    えっ。

尚子    ねぇ、そちらの方がマシューさん?

マシュー  なぜ俺の名を。

ゆき    あぁ、ごめんなさい。同居してること、喋っちゃったのよ。この人は、私の兄さんの奥さん。

尚子    尚子です。よろしくね。

マシュー  よ、よろしくおねがい、します。

→少し露骨な挙動不審ぶりですね。「(軽く会釈する)……。」くらいの言葉のほうが適当だと思います。

尚子    マシューって珍しい名前ね。ハーフか何か?

ゆき    あ、あぁ、純日本人よ。茉秋って名前なの。柔道選手のベイカー茉秋と一緒。

尚子    ベイカー茉秋はハーフよ。

→ずらしのテクニックとして面白いですね。

ゆき    あぁそっか。

浩     ねぇ、おじさんは?

尚子    あぁ、お土産買ってくるのを忘れててね、今そっちの商店街のケーキ屋さんに行ってる。

ゆき    え、そんなのいいのに。

尚子    それにしても遅いわね、道に迷ってるのかしら。

 

 部屋に駆け込んでくる栄治。

 

栄治    はぁはぁはぁ。

ゆき    兄さん!

尚子    もうあんた遅い!何やってたのよ。

栄治    ごめん、ちょっと道に迷ってて。

ゆき    ていうか、玄関の鍵。

浩     あ、ごめん閉めてなかった。

栄治    浩、玄関のカギはちゃんと閉めなきゃ。どんな犯罪者が忍び込んでくるかわからないんだ。防犯意識は高くな。

浩     大丈夫さ、この辺は平和すぎるくらい平和なんだ。空き巣も人殺しも来やしない。

栄治    そのゆるみが命取りになるんだぞ。犯罪者は意外と近くに居るもんだ。もしかしたら、殺し屋が押し入ってきて、全員抹殺するかもしれない。「金のありかを教えろ、さもないと、ダダダダダダー」って。

浩     大げさだなぁ。聞く前に撃ってるし。

尚子    もう、昼間からお固い話はやめてよ。そんなことのために来たんじゃないんでしょ?

栄治    あぁ、そうだった。ゆき、お前のフィアンセはどこだ。今日はその人に会いに来たんだ。

マシュー  フィ、フィアンセ?

ゆき    ちょっとやめてよ、別にフィアンセとかそういうことじゃないから。

尚子    あなた、この人よ。

栄治    あぁー、君がマシュー君か。うちの妹が世話になってるようで。

マシュー  いや、別にそんな。

栄治    これ(手に持っている包みを渡す)。あっちのケーキ屋で買ってきたんだ。うまいぞ?

マシュー  あ、あぁ、どうも。

浩     俺、冷蔵庫に入れてくるよ。

ゆき    つまみ食いしないでよ。

 

 浩、包みをもって退場。

 

栄治    自己紹介がまだだったな。ゆきの兄の栄治、警察官だ。何か困ったときはいつでも頼ってくれ。

→本人が自己紹介する時は怪しいケースが結構あります。

どういうことかと言うと、自分で名乗る以上は嘘である可能性が否定できないからです。

この例で言うと、英治が「警察官だ」と言っても嘘をついているかもしれません(まあ登場人物表に書いているのですから、事実だと思いますが…)。

第三者が「あの人は●●●らしいよ」と話すことで、初めて事実になります。

これを「情報が社会化される」と言います。

マシュー  警察・・・

 

 栄治、マシューの手を握る。

 

栄治    よろしくな。

マシュー  よ、よろしくお願いします。

栄治    そんな、敬語なんて使わなくていいよ。

「敬語なんて使わなくていいよ、そんな」の方が馴染みのある言い回しです。このように倒置法を用いましょう。

尚子    そうよ。もうすぐあなたも、時枝家の一員になるのに。

栄治    あぁ。ゆきが再婚するって聞いたときは驚いたよ、「もう結婚なんてしない!」って言ってたのになぁ。

ゆき    兄さん、私達べつに今結婚するわけじゃいのよ?

栄治    え、そうなの?

ゆき    結婚するなんて一言も言ってないわよ。ただ、男の人と同居しはじめた、ってだけで。

尚子    私は栄治から、ゆきちゃんがそろそろ結婚するって聞いてたんだけど。

ゆき    兄さん、話盛ったでしょ。

栄治    あ、あぁ、そうなのか。俺はてっきり、そろそろ式を挙げるものかと思ってたから、スピーチの練習までしてたのに。

尚子    もう、なにやってんのよ!はー、とんだ早とちりじゃない。こっちは着ていくドレスまで選んでたってのに。

栄治    泣き顔の練習までしてたのに。うううっ。

ゆき    なんかごめんなさい。

尚子    悪いのはこいつよ、もう。バカ。

栄治    い、痛いって。

ゆき    兄さんの早とちりは今に始まったことじゃないけどね。

尚子    でも、結婚しないってことは、付き合ってるわけでもないってこと?じゃあなんで同居なんか。

ゆき    あー、それはねぇ。

 

 浩が戻ってくる。

→登場人物の登場・退場で場が変わることを意識しましょう。この人とこの人がいないと成立しない会話であることが特に大事です。

浩     マシュー、そろそろ映画始まっちゃうよ。もう行かないと。

マシュー  あぁ、もうそんな時間か。

ゆき    あ、そうよ、わすれてたわ。ごめんね、今から映画を見に行くのよ。

尚子    あら、そうなの?なら、邪魔しちゃ悪いわね。あなた、帰るわよ。

浩     おじさんたちも一緒に行こうよ。

尚子    え?いいの?

浩     もちろんだよ。映画はみんなで見た方が楽しいし。いいでしょ?母さん、マシュー。

ゆき    私はいいけど、マシューは?

マシュー  あぁ、俺も別に構わない。

浩     だって。行こうよ!

尚子    そうなの?じゃあお言葉に甘えようかな。栄治いい?

→とても細かいのですが、「英治いい?」と果たして役名を言うだろうか?という気がします。

栄治    あぁ。なら、昼飯は俺がごちそうしよう。まだ食べてないんだろう?

浩     よっしゃ!

→現象的な反応ですね。もう少し他の表現が良いと感じました。

ゆき    そんな、悪いよ。

栄治    いいんだいいんだ。マシューにもごちそうしたいしな。マシュー、何か食べたいものはあるか。

マシュー  い、いや。俺は別に何も。

栄治    遠慮するな。俺たちはもう友達みたいなもんだ。奢るって言ってんだから素直におごられとけ、な?

尚子    もう、見栄っ張りなんだから。そういうことだから、ホントに何でもいいのよ?

マシュー  じゃあ、野菜を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン4 しあわせのかたち

 

 映画館。受付に冨樫。やってくるゆき、浩、栄治、尚子、マシュー。

 

冨樫    いらっしゃいませー。チケットを拝見しますね。

 

 冨樫、5人のチケットを見ていく。チケットを見られたものから順にはけていく。最後に残ったのは

マシュー。

 

冨樫    マシュー。殺し屋のマシュー。

マシュー  !

冨樫    現実での生活は楽しい?

マシュー  お前は誰だ。

冨樫    まだ殺し屋は続けてるんだって?仕事のために、何度か向こうへ戻ってるだろう。

マシュー  質問に答えろ。

冨樫    映画の神様みたいなもんさ。こっちと向こうを繋げてる。

マシュー  なぜそんなことをする。

冨樫    お前が望んでいたことじゃないのか?普通の、幸せな暮らしをすることを。だから叶えてやったのさ。

マシュー  別に望んじゃいない。俺はあの仕事でいくらでも稼げる。これまでずっとそうしてきた。

冨樫    その割に、楽しそうだけどな。三人で暮らすの。

マシュー  離れようと思えばいつでも離れられる。

冨樫    じゃあなんで離れない。

マシュー  ・・・彼女たちを傷つけたくないだけだ。

冨樫    本当にそれだけか?

マシュー  何が言いたい。

→跳躍力がありますね良い台詞です。

 

 浩、入場。

 

浩     マシュー何やってんだよ。映画始まっちゃうよ。

マシュー  あぁ、すまん。

 

 浩、マシュー、劇場へ。

 

冨樫    父親みたいだな。

 

 冨樫、退場。

 

 数時間後。ゆきの家。ゆきとマシュー。

 

ゆき    あの子、帰ってくるなりすぐ寝ちゃったわね。よっぽど疲れたのかしら。

マシュー  ずっとはしゃいでたからな。帰りの間もずっと映画の話をしてた。

ゆき    ほんと、映画になると止まらなくなるのよね。その調子で勉強ももう少し頑張ってくれるといいんだけど。

→「映画の話をしてると止まらなくなる」という設定が面白いので、ディテールがしっかりあったほうが良いと思います。

マシュー  映画はいいもんだ。見ている間は幸せな気分になる。

ゆき    幸せねぇ。まぁ、確かにそうだな。作り物ってわかってても、なんか感動しちゃうし。

マシュー  昔は、仕事の後は必ず映画を見るようにしてた。

ゆき    「素晴らしき哉、人生!」とか?確かに幸せな気持ちになれる映画ね。

マシュー  ああ。俺は人の幸せを奪う仕事をしてたからな。

ゆき    映画に助けを求めてたのね。

マシュー  映画を見るときくらいしか、休まるときがないからな。

ゆき    映画以外にも幸せになれる方法はいくらでもあるわ。仕事だって見つかったし、これから自由に生きられるんだから。

マシュー  俺に人並みの幸せを得る権利はないさ。

ゆき    そんなことないわよ。

マシュー  あるさ。何人も殺したんだから。仕事から帰ると、体中から血の匂いがする。洗っても洗っても、中々落ちてくれない。人の幸せも、未来も、夢も、希望も奪うのは、それだけ自分を殺さなくちゃやってられないのさ。

 

ゆき    それは昔のあなたでしょ?なら今度は、殺した人の数以上の人を幸せにすればいいのよ。あなたの仕事で。未来はそのためにあるんだから。

マシュー  君はイヤじゃないのか?その、殺し屋が隣に居るのは。

ゆき    全然。

マシュー  だが君の兄さんは、俺が殺し屋だって知ったら嫌な顔をするだろう。

ゆき    黙ってればいいじゃない。

マシュー  いつかバレるんじゃないかと思うのさ。

ゆき    全部やり直せばいいのよ。昔の自分なんて捨ててしまえばいい。あなたは今ここにいるんだから。

→ちょっとテーマを語りすぎている気がします。

マシュー  でも、ゆき、

 

ゆき、マシューの手を握る。

 

ゆき    幸せになってよ。

マシュー  (手を振りほどいて)よしてくれ。

ゆき    あら、顔赤くなってない?っ、ふふふ。うふふふふふ。

 

 ゆき、笑いだす。

 

マシュー  何がおかしい。

ゆき    あなたって、案外かわいいとこあるわよね。その、女慣れしてない感じ?とか。

 

 どぎまぎするマシュー。笑うゆき。

 

ゆき    好きな人とかいないの?恋人、とか。

マシュー  ・・・いないよ。

ゆき    そう。

マシュー  俺には、縁のないことさ。・・・もうこの話はやめだ。寝よう、君は明日仕事だろう。

 

 マシュー、腰掛ける。

 

ゆき    また今日も、椅子で寝るの?

マシュー  この方が落ち着く。

ゆき    それじゃ寝れないでしょう。

マシュー  これまでまともに眠ったことはない。いつも片目を開けて寝る。

ゆき    殺し屋の時はね。もういいじゃない。あっちに布団敷くから、その方がきっとよく眠れるわ。いい夢見れるかも。

マシュー  いや、いい。俺はこの方が、性に合ってる。

ゆき    ・・・そう。じゃあまた明日ね。おやすみ。

 

 ゆき、退場。サングラスをかけるマシュー。腰掛けたまま眠る。ジャンルカ、入場。

 

ジャンルカ 可愛い娘だな。

マシュー  !・・・ジャンルカ。そうやってふいに来るのはやめてくれ。

ジャンルカ こうでもしないと、お前と連絡が取れないだろう。俺が夢に出てくるのがそんなに嫌か?

マシュー  いや、そうじゃない。

ジャンルカ あの受付の男のお陰かな。こうして離れていても仕事を依頼できるのは。全く、ヤツは何者なんだろうな。

マシュー  あぁ、映画の神だとかなんとか言ってたよ。

ジャンルカ 神か。ハハハッ、本当に居るもんなんだな。俺の孫も言ってるよ、悪いことをすると神様に叱られる!って。じゃあ俺は怒られすぎてもう呆れられてるな。ハハハ。

マシュー  ・・・・・

ジャンルカ それよりお前、あの娘のことをどう思ってるんだ。

マシュー  あぁ、俺に色々してくれるよ。もちろん感謝はしているが、その、別にそれ以上でもそれ以下でもない。

ジャンルカ それは嘘をついている顔だな。

マシュー  えっ。

ジャンルカ お前は昔からそうだ、嘘をついたらすぐ下を向く。

マシュー  俺が下を向いたことがあったか。

ジャンルカ あるさ、何度も。お前が大事な仕事道具をなくした時も、俺のへそくりをくすねた時も、いつも下を向いて「知らない」って言うんだ。

マシュー  ガキの頃の話はよしてくれ。

ジャンルカ そしてお前が、親父のつてで初めて俺のところに来た時もだ。何があったって聞いても何も答えない。ずっと死んだ魚のような眼をして、表情一つ変えなかった。そして俺は聞いたんだ。「女と別れたのか?」って。

マシュー  ・・・・・

ジャンルカ 冗談のつもりだった。だがそれを聞いた途端お前は、下を向いた。そして「ちがう」と言った。俺だってガキのウソくらいは見抜けるさ。そして今のお前もそうだ。

マシュー  ジャンルカ、昔話はもういい。さっさと仕事の話を、

ジャンルカ お前、あの時のことを忘れたのか。

マシュー  あの時?

ジャンルカ ガキのくせに女に夢中になったおかげで、死ぬほどつらい思いをしたろう。それがあったから、今のお前がある。そうだろ。

マシュー  あぁ、そうだ。

ジャンルカ あの娘に何を吹き込まれても、動じるんじゃない。おまえは殺し屋だ。

マシュー  分かってる。俺はこれでしか生きられない。そんなことくらいわかってる。

ジャンルカ あぁ。ならさっさと映画に戻ってこい。もう現実には出るな。

マシュー  ・・・・・

ジャンルカ 現実に居たところで、お前には殺ししかない。殺し屋である以上、お前はあの娘と一緒になることはできない。人の血で汚れた金で、あの娘らに飯を食わせるつもりか。

マシュー  ジャンルカ!!!

ジャンルカ !・・・どうした。

マシュー  あ、いや、なんでもない。仕事の話をしてくれ。

ジャンルカ あぁ、そうか分かった。それで、依頼なんだが、俺と一緒に武器の取引をしていたエヴァ―ジオ。ヤツが取引で得た金を持ち逃げしやがった・・・

 

 音響とともに暗転。

 

 

 

 

 

 

 

シーン5 魔性の女

 

 映画の世界。葉巻を吸っているベニート。両サイドについているフランク、ミルコ。ミルコは灰皿を持っている。

 

ニート  フーッ(葉巻の煙をフランクに吹きかける)。

フランク  ううっ。

ミルコ   (火をつけられると思って身構える)

ニート  (普通に灰皿で火を消す)

ミルコ   えっ。

ニート  ・・・よし。

フランク  オーケイ。ボス、俺たちを直々に呼び出して、一体なんの用だい?

ニート  フランク、ミルコ、あの件はどうなってる?あれから何日か経ったが。ちゃんと遂行できたんだろうな?

フランク  あぁ、ボス。あの件だろう?マシューを始末する任務だろう?

ニート  そうだ。

ミルコ   それ以外にないよな。ボスは俺たちがヤツの首を持ち帰るのを首を長くして待っていたんだ。

フランク  もちろんさ。・・・ボス、日本にこんな諺があるのは知っているかい?「急がば回れ」って。なにか物事を成し遂げようとするときは、急いでやるよりも安全に確実に、ゆっくりやる方がいい、っていう意味さ。

ミルコ   何が言いたいのかわかるかい?

 

 少しの、間。次の瞬間フランク、ミルコ、めっちゃ土下座する。

 

☆フランク すみませんでしたあああああああああああああああ!!!!!!!!!

☆ミルコ  すみませんでしたあああああああああああああああ!!!!!!!!!

ニート  は?

フランク  すみませんもうほんとにマジですみません!まだなんにもできてないです!ヤツの首どころか居場所すら見つけられてないっすすみませんでしたああああああ!!!!!

ニート  素直だなお前。

ミルコ   ボス、俺たちは一生懸命やったんだ。その、あと一週間!あと一週間あれば、

ニート  じゅー(葉巻をミルコの体に押し付ける)。

ミルコ   あちっ!

ニート  貴様らいい度胸をしているな。俺のためなら命を懸ける覚悟がある、と、貴様らは確かにそう言ったろう。

 

 ベニート、ナイフを取り出し、べろりと舐める。フランクの首元に付きつける。少しの、間。

 ベニート、フランクの首元からナイフを離す。

 

フランク  !

ミルコ   ボス?

ニート  安心しろ、ハナからお前らを死なせるつもりはなかった。貴様らのようなカボチャ以下の命でも、俺の大切な部下の命だ。そうみすみす犬死させるわけにはいかん。

☆フランク ボス・・・

☆ミルコ  ボス・・・

ニート  それに、(フランクに)お前にも居るのだろう、恋人が。お前たちの恋仲を引き離すほど俺も鬼ではない。昔から言うだろう、「人の恋路を邪魔する奴は、牛に踏まれて死ね」って。

ミルコ   ボス、それを言うなら「馬に蹴られて死ね」じゃ、

ニート  何か言ったか?

ミルコ   いや、何も。

フランク  ボス、そこまで俺のことを思って・・・

ニート  勘違いするな。俺は俺の目的を達成するために動いているだけだ。フランク、ミルコ、お前たちがあれこれやっている間にもう一人、この任務を請け負ったやつがいる。

ミルコ   もう一人?

ニート  フランク、これを持て。

 

 ベニート、フランクに一本のバナナ(本物は使いたくないので模型)を渡す。

 

フランク  バナナ?

ニート  動くなよ、絶対動くなよ。

フランク  え、え?

 

 その時、銃声が鳴り響く。すると、フランクの手からバナナが落ちる。少しの、間。ベニート大きく拍

手をする。

 

フランク  すごい射的能力だ。

ミルコ   今自分で落とさなかったか?

ニート  入ってこい。

 

 ベニート、袖に向けて言い放つ。やってくるソフィア。

 

☆フランク !

☆ミルコ  !

→記号を多用するのは漫画の表現が多いようです。リアクションではなく行動に移しましょう。

ニート  殺し屋のソフィアだ。マシューと肩を並べるほどの腕の持ち主だ。

ソフィア  よろしくね。

フランク  ヘイ、セニョール。

 

ソフィアに近寄るフランク。

 

フランク  その服どこで買ったの?すごく似合ってるよ。あぁ、なんて魅力的な瞳だ、まるで吸い込まれそうだ。あぁ、今俺は自分の運命を恨んでるよ。今まで君に出会えなかった運命に。

ミルコ   フランク!お前にはキュートでセクスィなヴェロニカがいるだろう!

フランク  ヴェロニカとはフェロモンレベルが違いすぎるぜ。どうだい?今夜一緒に食事でも。

 

 ソフィア、フランクに強烈なパンチを入れる。

 

フランク  うごぉっ!!

ミルコ   フランク!

ソフィア  キザな男はもう飽きたわ。ねぇ、そこの坊や?

→キザですねー(笑)「お前もキザだろ!」と突っ込んでもいいような…

ミルコ   え、俺?

 

 ソフィア、ミルコに近寄る。

 

ソフィア  あなた、お名前は?

ミルコ   ミ、ミルコ。

ソフィア  ミルコ、牛乳みたいな名前ね。年はおいくつ?

ミルコ   に、にじゅうご。

ソフィア  あら、まだまだお子様ねぇ。ん?どうしたの?女の人に手を握られるのははじめて?

ミルコ   あ、は、はい。

ソフィア  アハハハハッ。ミルク臭いのねぇ。気に入ったわ、これは私からのプレゼント。

 

 ソフィア、ミルコに首輪をつける。その首輪には鈴が付いている。

 

ソフィア  子猫みたいで可愛いわ。ミルク臭いにあなたにぴったり、アハハ、アハハハハッ。

ミルコ   か、かわいい?俺、かわいいとか一度も言われたことないよ。あっ、なんかいい匂いもするような気がする・・・

 

 ミルコ、ソフィアにデレデレ。

 

ニート  これがヤツの得意技だ。色仕掛けで敵を陥れ、殺す。まぁ、マシューにはそんな手効かんだろうが、これ抜きにしてもソフィアの殺しのテクは本物だ。

フランク  ブ、ブラヴォー。

ソフィア  ボス、早速敵のドンに会いに行きましょう。そしてマシューの居所を聞き出すの。もう相手の弱みは握ってある、必ずヤツの居所は割れる。

ニート  さすがはプロ、仕事が早いな。

ソフィア  仕事は早く完璧に、そして美しくなきゃいけないの。

ニート  そうか。よし、ジャンルカの所へ行こう。やっと・・・やっとアトラーニが俺のものになる。

 

 ベニート、ソフィア、退場。

 

フランク  あ、待ってくれボス!

 

 フランク、退場。

 

ミルコ   あ、ソフィア待ってニャーン。

 

 ミルコ、退場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン6 告白

 

 現実世界。ゆきの家。マシューが一人筋トレをしている。インターホンが鳴る。玄関に出るマシュー。

 マシューと一緒に、栄治、尚子が入ってくる。

 

栄治    急にきてすまないな。

尚子    今日は一人なの?

マシュー  あぁ、ゆきは監督との打ち合わせに行ってる。浩は部活だ。公演が近いんだそうだ。

栄治    そうか、浩は公演前なのか。また見に行かなきゃな。

尚子    マシュー君は、行くの?浩ちゃんのお芝居。

マシュー  あぁ、行くさ。浩と約束もしたんだ。その日は仕事を開けてでも見に行くって。

栄治    あ、そういえばマシュー。君は何の仕事をしてるんだ?君から仕事の話を一度も聞いたことはなかったが。

マシュー  ・・・接客業だ。

栄治    接客業?どんな。

マシュー  まぁ・・・クライアントの依頼を受けて、その通りにやるって感じかな。

栄治    へぇ。依頼ってどんな。

マシュー  企業秘密だ。

栄治    えっ。あ、わかったあれだろ探偵なんだろ。だったら、依頼人のことをペラペラ喋るわけにもいかないもんな。

マシュー  え、あ、いや。

栄治    事件が起こったときは俺が依頼するかもしれないから、よろしくな。

尚子    栄治、今日はそんな話をするために来たんじゃないしょう?

栄治    あ、あぁ、そうだった。

尚子    もう。ごめんねマシュー君、ついていけないでしょう?いっつも自分のペースで喋るから。

マシュー  いやいや、大丈夫だよ。それで、何か話が?

栄治    ああ。実はなマシュー、来週ゆきの誕生日なんだ。

マシュー  そう、なのか。

栄治    知らなかったのか?それでな、ゆきの誕生日パーティをやろうと思っててな。

マシュー  誕生日パーティ?

栄治    そうだ、毎年やってるんだけどな。あいつ、ずっと一人で子育ても、仕事も頑張ってきたんだ。だから労いの意味も込めて、年に一回くらいは盛大にお祝いを、ってな。

尚子    それでね、マシュー君も何かこう、用意してほしいのよ。プレゼントを。きっとゆきちゃんも喜ぶだろうし。

マシュー  でも、何を渡せばいいのかわからない。俺は彼女の欲しがるものもわからないし、そもそも人にプレゼントなんてしたことないから。

栄治    あいつはなんでも喜ぶよ。それも君にもらったものならね。

マシュー  どうして。

栄治    それはまぁ、あれだ。察してくれ。

尚子    まぁまぁ。そういうことよ。ていうか、もうお昼の時間じゃない?一緒に食べに行きましょうよ。

マシュー  いや、それは悪いよ。

尚子    もう、相変わらず遠慮がちなんだから。どうせこの人が全部出すんだから、なんでも食べたいもの言っていいのよ。

栄治    その辺にうまい豚料理出してる店があるんだ。そことかどうだ。

尚子    あんたが行きたいだけでしょ。

マシュー  じゃあ、野菜を。

尚子    え、野菜でいいの?

マシュー  ああ。野菜が好きなんだ。

尚子    せっかくだからお肉食べればいいのに。おいしいわよ、そのお店のトンカツ。

マシュー  いや、肉は控えてるんだ。その、汗くさくなるから。

尚子    あら、気にしてるの?ストイックなのね。

マシュー  自分の匂いを知られちゃならないからな。

尚子    えっ?

マシュー  いや、なんでもない。

栄治    マシュー、筋トレするならタンパク質取らなきゃだぞ。

マシュー  毎日プロテインと牛乳を飲んでいるから問題ない。

栄治    そ、そうか。じゃあこの間の店だな。もう行こう、腹ペコだ。

マシュー  先に行っててくれないか。ちょっと、トイレに。

 

 栄治、尚子退場。

 夜になる。ゆき、部屋に入ってくる。

 

ゆき    あぁ、まだ起きてたの。

マシュー  お疲れ様。どうだ、脚本は。

ゆき    なんとか監督にはオーケーがもらえた。これからセリフに起こしていかなきゃなのよね。

マシュー  大変なのはここからってことか。

ゆき    まぁね。ほんとにありがとうね。

マシュー  俺は何もしていない。

ゆき    手伝ってくれたじゃない。

マシュー  少しだけだろ。

ゆき    それでもよ。

 

 少しの、間。

 

マシュー  ゆき、来週誕生日なんだろ?

ゆき    え、あぁうん。どうして知ってるの?

マシュー  君の兄さんから聞いた。

ゆき    ああ。

マシュー  それで、その。一緒に、食事に行かないか。その後、映画も見よう。その、二人きりでもいいし、浩と三人でもいい。

ゆき    嬉しいわ。どっちでもいいよ。

マシュー  そうか。なら、三人で行くか。

ゆき    そうね。浩も喜ぶわ。

 

 少しの、間。

 

ゆき    ねぇマシュー。お願いがあるんだけどさ。

マシュー  どうした?

ゆき    あのさ・・・家族になってほしい。

マシュー  ・・・結婚しろということか。

ゆき    まぁ、そういうことね。結婚してほしい。これから、私とマシューと浩と、三人で暮らしたいと思ってる。浩も、あの子も父親がほしいと思うし、何よりその・・・私、あなたのことが好き。

マシュー  ゆき、

ゆき    こんな気持ちになったの、久しぶり。胸にこう、痛むような刺激があって、ぐーっと大きくなって、そして消えた。

マシュー  そりゃいい。ただの胸やけだ。

ゆき    ちがうわ、これは恋よ。あなたが来てから、すべてが変わった。日々の暮らしも、私の気持ちも。・・・あなたは変わらないの?

 

マシュー  全く。俺は俺のままだ。

ゆき    そんなことないわ。あなたもきっと私を愛してくれてる。

マシュー  俺に人を愛する資格はない。

ゆき    まだそんなことを言うの。

マシュー  ゆき、君はどうして別れた。君のような、その、優しい女性なら、誰とも暮らしていけるんじゃないか。

ゆき    あぁ。私が振ったのよ。

マシュー  君が?

ゆき    うん。大学の映画サークルで付き合った人だったんだけどさ、なんかこう、成り行きっていうか、何となくで結婚した感じで。

マシュー  好きじゃなかったのか?彼のことは。

ゆき    当時は好きだったんだと思う。でも、一緒に暮らしたら全然違ってた。趣味も全然合わないし映画だって、向こうはあんまり興味なかったみたいだし。

マシュー  そうか。きっと俺と一緒になってもそうなる。

ゆき    そんなのわからないわ。

マシュー  ・・・ゆき、俺はいい恋人にはなれない。

ゆき    ・・・やっぱり、ほかに好きな人がいるの?

マシュー  違う。昔、ある女性と付き合ってた。殺し屋になる前だ。彼女は由緒ある家の生まれだった。だが、彼女の父親は俺を嫌ってた。俺の親父が、マフィアの下っ端だったから。俺が彼女と会えば、父親はカンカンに怒った。そのたびに俺は殴られた。

→過去の説明を聞いているのは少々まどろっこしいです。

語りだすきっかけ、状況が欲しいと思いました。

ゆき    それでも彼女に会いたかったのね。

マシュー  あぁ。だが、彼女は殺された。実の父親に、事故に見せかけて。それを知った俺は、ある晩

父親待ち伏せた・・・事故ってことでな。それから俺は殺し屋になった。ジャンルカ・・・ボスのもとで働いていた親父を頼って。それから人を殺す以外何もしてこなかった。もちろん恋だって。

ゆき    そう・・・

マシュー  俺と一緒に居ても幸せにはなれない。君にはもっといい人が居るはずだ。

ゆき    ・・・ええ。・・・じゃあ、ひとつ私の頼みを聞いて。

マシュー  なんだ。

ゆき    もう椅子で寝るのはやめて。布団を敷くから、そっちで寝てちょうだい。

マシュー  ゆき、それはあんまりよくない。

ゆき    大丈夫。ここじゃ誰もあなたを殺しに来ないわ。寝るときくらいリラックスしてよ。きっといい夢が見られるわ。

マシュー  あぁ、わかった。

ゆき    うん。じゃ、こっちに来て。

 

 ゆき、マシュー退場。

 映画館。冨樫登場。

 

冨樫    えー本日のレイトショー「Matthew」は24時30分開演でございます。受付をすませていないお客様は、お早めにお越しください。

 

 マシュー、登場。「仕事の服」に身を包んでいる。

 

マシュー  大人1枚で。

冨樫    また行くのか。仕事か?

マシュー  あぁ。ただ、最後になるかもな。

冨樫    お、どういうことだ?もう殺し屋はやめるのか?それとも・・・

マシュー  さあな。

冨樫    さあ、か。まぁ、頑張ってこい。

 

 マシュー劇場の中に。

 

冨樫    1か月前に公開されたばかりの「Matthew」はもうレイトショーでしかやってない。いや、あれだけ人気がないのに、打ち切りにならないだけマシでしょうか。今日も観客は彼一人。でも、そろそろ打ち切られるかもしれませんね。もしそうなったら・・・彼はどうするのでしょうか。

 

 冨樫、退場。

 劇場の中。マシューが居る。銀幕をじっと見据えている。映写機のカタカタという音が鳴り響く。まば

ゆい光に包まれる劇場。暗転。

 暗闇。声が聞こえてくる。

 

声     おい、待ってくれ。俺は金なんて盗んじゃいねぇ。ほんとさ、信じてくれよ!やめろ、う、撃つな!

 

 銃声。

 現実世界。ゆきの家。ゆきが居る。浩が起きてくる。

 

ゆき    あぁ、浩。おはよう。

浩     おはよう。母さん、マシューは?

ゆき    あぁ、お仕事だそうよ。

浩     え、こんな朝早くから?

ゆき    昨日の夜から仕事なんだって。

浩     大変だなぁ。ん?接客業なのに夜・・・母さんマシューの仕事って。

ゆき    浩、変なこと考えないで。

浩     あ、うん。

ゆき    ねぇ、浩。

浩     ん?

ゆき    浩はさ、マシューとこれからも暮らしたいと思う?

浩     なんでいきなりそんなこと聞くの?

ゆき    いいから答えて。

浩     俺は暮らしたいよ。母さんは違うの?

ゆき    よくわからないのよ。

浩     何が?

ゆき    彼のこと。私は、彼と一緒に居るべきじゃないのかなって。私の幸せを、マシューに押し付けてるだけじゃないのかなって、さ。

浩     んー、そんなことないと思うけどなぁ。

ゆき    え?

浩     だって母さんと映画の話をしてる時のマシュー、なんだかほくほくしてるっていうか、楽しそうっていうかそんな感じがする。

ゆき    それは映画の話だからじゃないの?

浩     俺にはそうは思えないんだ。よくわからないけど、なんとなく。

ゆき    そう。

浩     やっぱり、マシューのこと好きなんだろ?マシューもきっとそうだよ。俺は、母さんもマシューもどっちも好き。

ゆき    やめてよ恥ずかしい。

浩     あれ?顔赤くなってない?

ゆき    もう、早く支度しなさい。学校遅れるわよ。

浩     あのね、今日俺には大事な使命がある。映画館に行って「ゴキブリ人間2」を見るっていう。

ゆき    ダメ。ちゃんと授業には出る。ほら。

 

 浩、退場。少し経ってからゆきも退場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン7 悪魔の足音

 

 映画の世界。ジャンルカのアジト。プレゼントを抱えたジャンルカがやってくる。

 

ジャンルカ ハッピーバースデーアンジェリーナ!おじいちゃんがプレゼントを買ってきたぞ。そら、お前の欲しがっていたクマのぬいぐるみだ。どうだかわいいだろう、あれ。

 

 家の中には誰もいない。

 

ジャンルカ おかしいな、どうしていないんだ。おーいアンジェリーナ、おじいちゃんだぞー。おじいちゃんが誕生日プレゼントを持ってきたぞー。恥ずかしがらないで出ておいで。

 

 返事はない。

 

ジャンルカ どこに行ったんだアンジェリーナ。まさか、誘拐か?

ニート  お孫さんをお探しかな?

ジャンルカ !

 

 ベニート、ソフィア、フランク、ミルコ、入ってくる。

 

ジャンルカ ベニート・・・

ニート  久しぶりだな。全く変わっていない。

ジャンルカ 孫をどこへやった。

ニート  ああ、ちょっと一緒に来てもらったよ。まぁ、人質としてね。

ジャンルカ 貴様。

 

 ジャンルカ、銃を構える。しかし同時にフランクとミルコに銃を向けられる。

 

フランク  銃を下せ。

ミルコ   死にたくなければな。

 

 ジャンルカ、なすすべなく銃を下す。

 

ソフィア  ねえおじいちゃん。あなたに一つ聞きたいことがあるの。殺し屋マシューの居所、あなたならわかるんでしょう?それを教えてほしいの。

ジャンルカ 孫を返せ。

ソフィア  会話をしましょうおじいちゃん。私はマシューがどこにいるのかを知りたいの。

ジャンルカ 知らん。

ソフィア  本当に?シラをきったらどうなるか・・・ボス。

 

 ベニート、ポケットからリモコンを取り出す。

 

ニート  孫は地下室に閉じ込めてある。爆弾と一緒にな。本当のことを言わなければその時は・・・木端微塵だ。

ジャンルカ ・・・・・

ニート  あは、あははははは、あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ。

ソフィア  教えてくれるわよね?私、早くマシューに会いたいの。

ジャンルカ ・・・・・

 

 俯いているジャンルカ。何かを言おうとしている。音響イン。暗転。

 

 照明つく。町中の雑踏。マシューが一人たたずんでいる。自分の手を見るマシュー。その手は血で汚れ

ている。ポケットからハンカチを取り出し、手をふく。ハンカチをしまう。今度は反対側のポケットから

札束を取り出す。先ほどの仕事の報酬である。もちろんイタリアのお金。マシュー、上手側にはける。上

手袖から声が。

 

声     番号札84番でお待ちのお客様。お待たせしました。

 

 マシュー出てくる。その手には1万円札が何枚も重なった札束。今度は下手側にはける。下手袖から声

が。

 

声     39万円のお買い上げになります。ありがとうございました。

 

 マシュー出てくる。コートの内側、左側の胸ポケットに何か入れている様子。そして退場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン8 接近

 

 ゆきの家。誕生日パーティの準備をしている栄治と尚子。

 

栄治    やっぱこの置物いらない?

尚子    何でもってきたのよ、もう。あっても邪魔になるだけでしょ。

栄治    いやあ、少しでもパーティに花を添えようと思って?

尚子    そんな心意気があるなら花屋でバラの花束でも買ってきてよ。

栄治    チッチッチ。ハニー、バラは愛を伝える花だから、誕生日に贈る花にはふさわしくないぞ。あ、バラと言えばさっき料理に使おうと思って買ってきた豚バラが、

尚子    そういうのいいから。

 

 インターホンが鳴る。

 

尚子    あ、行ってくる。

 

 尚子玄関へ。少しの、間。

 

尚子    ちょ、ちょっと、なんですかあなた!

 

 ソフィア、部屋の中へ。尚子も戻ってくる。

 

栄治    ・・・誰だあんた。

ソフィア  ごめんなさい、人探しをしているの。ここにマシューっていう人が居るはずだけど。

尚子    マシューはいないわ。

ソフィア  それ本当?

 

 ソフィア、懐から銃を取り出す。その銃にはサイレンサーが付いている。

 

☆栄治   !

☆尚子   !

ソフィア  正直に話してくれたら何もしないから。ねぇ、マシューはどこ?

尚子    だから、知らないわよ!

 

 その時、マシューが部屋に入ってくる。

 

マシュー  おい、玄関の鍵あいてたぞ・・・お前。

ソフィア  久しぶりね、マシュー。

マシュー  ・・・どうしてここにいる。

ソフィア  ジャンルカからすべて聞いた。

マシュー  ジャンルカ?

ソフィア  ええ。孫を殺すって脅したらペラペラ話してくれたわ。映画の外にあなたが出て行ったことも。まさか本当に現実に来れるなんてね。ベニートたちも一緒よ。あなたを追ってきたの。

マシュー  ベニートに付いてるのかお前。

ソフィア  ええ。少し前からね。あなたも、まだ殺し屋を続けてるそうじゃない。

栄治    マシューこいつは誰なんだ一体なんの話をしているんだ。殺し屋って?

マシュー  二人とも、少し向こうへ行っててくれないか。

ソフィア  あら、まだこの人たちには言ってなかったの?じゃあ教えてあげる。

マシュー  やめろ!

ソフィア  マシューは殺し屋よ。それも超一流の。何十人も何百人も殺した。

栄治    !そんな。

ソフィア  信じてもらえないかしら?その服、さしずめ仕事帰りってとこね。ほら、銃を捨てな。そしたら全員助けてあげる。

 

 マシュー、懐の銃を捨てる。

 

マシュー  俺を殺しに来たのか。

ソフィア  元々はね。でもね、考えたの。あなたほどの人間がここで死ぬのはもったいない。そこで提案なんだけど、私と組まない?一緒に殺し屋の仕事をしましょうよ。あなたと私が組めば、もう最強よ。

マシュー  俺は誰とも組まない。

ソフィア  ボニーはクライドと組んだしテルマはルイーズと組んだ。そしてレオンはマチルダと組んだわ。二人でやればできる仕事も増える、もっとお金も稼げる。最高でしょ?

マシュー  興味ないな。

ソフィア  それにね、私。

 

 ソフィア、マシューに寄り添う。

 

ソフィア  あなたに恋をしてるのよ。1の殺し屋の座を巡って競い始めた頃から。でも、いつまでも対立しているばかりじゃ嫌なの。近づきたいの。ふふっ。ねぇ、一緒に居させて、永遠の愛を誓いましょうよ。

マシュー  その汚い手で俺に触るな。

ソフィア  ・・・あなたもでしょう?その逞しくて、綺麗な手は、何人もの血で汚れているくせに、今更何を言うの?

マシュー  それ以上喋ったら殴り飛ばすぞ。

ソフィア  あは、あははははは、あははははははははは。できないくせに。女性には手を上げられないものね、優しい人。そういうところも素敵。でも優しいから、すぐに変な虫が付いちゃ

うのよね。あなた、好きな人ができたんでしょう?

マシュー  !

ソフィア  42歳の女。あははははは、もう干からびたおばさんじゃない。それも何、映画の脚本家?あはははは。そんな女にマシューを幸せにできるの?そいつと一緒に居て、お金は稼げるの?・・・それに息子君も、将来の夢は俳優?あははは、親子そろってお花畑?映画なんて、そんなお遊びに人生掛けてるなんて・・・おめでたいのね。

マシュー  黙れクソ女。

ソフィア  やだぁ、そんな汚い言葉使って。若いころのあなたはもっと紳士だったわ。

マシュー  彼女らも映画もバカにさせない。お前にはわからないだろう、映画でどれほど人を幸せにできるのか。

ソフィア  ええ、分からないわ。てか、あなたの言う幸せってナニ。映画を見れば幸せになるの?じゃあ映画を見ればお金が入ってくるの?好きなもの食べて、遊んで暮らせるわけ?はははっ、冗談でしょう?所詮お金のない人たちが、映画があれば幸せって負け犬の遠吠えみたいにほざいてるだけじゃないの?やっすい幸せ。あなたもずいぶん安っぽくなったものね。安っぽい人たちに囲まれてたら、心まで貧相になるのかしら。

 

 マシュー、ブチギレそうになるが、そこへ尚子が割って入る。そしてソフィアにビンタをかます。

 

☆マシュー !

☆ソフィア !

栄治    尚子!

 

 ソフィア、顔を上げる。鬼のような形相で尚子を睨みつける。尚子もにらみ返す。少しの、間。

ソフィア、平生を取り戻す。

 

ソフィア  ・・・まぁいいわ。よほど私と組む気はないようね。じゃあもう勝手にしなさい。アトラーニ1の殺し屋の座は私がいただく。どんな手を使ってでもね。

 

 その時、ソフィアのケータイが鳴る。

 

ソフィア  はい、ボス。何をそんなに怒ってるの?マシューの居場所は突き止めたわ、別に今からでも殺せる。・・・え、戻ってこいですって?わかった、今どこにいるの?

 

 ソフィア、通話をしながら退場。

 

マシュー  どうして。

尚子    許せるわけないでしょう。家族が、あんなにコケにされたってのに。

栄治    マシュー、今のヤツの話、本当か?その、お前が殺し屋だってのは。

マシュー  ・・・あぁ。

栄治    殺したのか、何十人も、何百人も。

マシュー  すべて真実だ。

 

 少しの、間。栄治、マシューを殴り飛ばす。

 

尚子    栄治!

栄治    そんな奴だとは思わなかったよ。これから一緒に・・・家族になれると思っていたやつが、殺人鬼だったなんてな。

尚子    落ち着いて栄治。

栄治    落ち着いていられるかこれが。ずっとだましていたのか、俺たちのことも、ゆきのことも。

マシュー  すまなかった。

栄治    謝って済むかよ!・・・俺は警官だ。目の前に人殺しが居たら、逮捕しなきゃならないんだぞ。

マシュー  ・・・・・

栄治    殺人鬼に妹はやれん。尚子。

 

 栄治、尚子の手を引っ張って出ていく。一人になったマシュー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン9 暴走

 

 とある公園のような広場。ベニート、フランク、ミルコがいる。ソフィア入場。

 

ニート  ソフィア!

 

 ベニート、ソフィアに駆け寄る。

 

ニート  勝手に行動するんじゃない!ちゃんと俺の指令を聞いてだな、

ソフィア  ごめんなさい、ボス。ヤツの居所を突き止めたんだから許してよ。それに私いいことを考え付いたの、マシューをより苦しめて殺す方法。ヤツの女を人質に取る。身動きが取れなくなった所をゆっくり殺す。いい考えだと思わない?

ニート  うるさい、それは俺が決めることだ。お前が俺に指図するな。お前は言われたとおりに仕事をしていればいいんだ。

 

 ソフィア、ベニートの脚を拳銃で撃つ。

 

ニート  うぎゃっ!

ソフィア  指図指図って・・・私はあなたのコマだとでも言いたいの?勘違いしないでよ、歴史的大バカ野郎。あんたが町一番のマフィアになることなんかどうでもいい。私は私の目的を果たせればそれでいいのよ。

ニート  貴様・・・フランク!ミルコ!こいつを殺せ!

 

 ベニートが言い切る前にソフィアはベニートの頭を撃ち抜く。絶命したベニートは倒れこむ。笑うソ

フィア。ゆっくりと二人の方を見るソフィア。フランクと目が合う。

 

フランク  う、うわあああああああああああああ!!!!!!!

 

 逃げるフランク。その後ろ姿を狙撃するソフィア。袖から人が倒れた音がする。

→シナリオの約束事にもありますが、「逃げるフランク」の場合、フランクのドアップ、「フランク、逃げる」の場合、フランクが逃げる映像を映し出しています。

つまり映像的です。ちょっと意識するように心掛けましょう。

ソフィア  あは、あははは、あっははははははは最高の気分よ!

ミルコ   わ、わ。

ソフィア  ミルコ、あなたは私の邪魔をしないわよね?

ミルコ   あ、あぁ、しない絶対しない!だから、命だけは・・・

ソフィア  何を怖がってるの?ふふふ、今度は怯えた子犬みたいな顔してる。安心して、あなたを殺しはしない。私の可愛いミルコ。

ミルコ   ソフィア。

ソフィア  あなたはここで大人しく待ってくれさえすればいいのよ。できるわね?

 

 何度も首を縦に振るミルコ。

 

ソフィア  いい子ね。じゃあそんないい子にはプレゼントをあげるわ。

 

 ソフィア、ミルコに何か手渡す。

 

ソフィア  待っててね。

 

 ソフィア、走って退場。ミルコ、手を広げる。するとそこには手榴弾が。

 

ミルコ   そんな。

 

 暗転。爆発音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン10 決断

 

 どこかの路地。マシューが一人。浩がマシューを呼ぶ声がする。

 

浩     マシュー!マシュー!

マシュー  浩!

 

 あたりを見回すマシュー。浩がやってくる。

 

浩     あ、マシュー!

 

 マシューに飛びつく浩。今にも泣きそうである。

 

マシュー  どうしたんだ。

浩     大変なんだ。母さんが、母さんが。

マシュー  落ち着け!ゆきがどうしたっていうんだ。

浩     さっき一緒に家に帰ったら、銃を持った女が待ち伏せてて、そいつが俺たちに銃を向けて・・・母さんが捕まえられた。

マシュー  なんだって。

浩     んで、その女が言ったんだ。

 

 ソフィア、登場。

 

ソフィア  一時間以内にマシューをここへ連れてきて。でないとこの女を殺す。

 

ソフィア、退場。

 

マシュー  そういうことか。

浩     マシュー、お願い母さんを助けて!このままじゃ母さんが殺されちゃう!

マシュー  ああわかった。ゆきは俺が助ける、必ずな。ヤツは今どこだ。

浩     家だよ。母さんを人質にとって。

マシュー  そうか。

浩     もう時間が無いよ!

マシュー  分かった、急いでいく。危ないからお前は家に入るな。わかったな。

浩     うん。俺、おじさんたちに電話するよ。助けに来てもらうように頼んでみる。

マシュー  ・・・あぁ頼んだ。

 

 マシュー、退場。浩、ケータイを取り出す。マシューとは反対方向に退場。

 照明変わる。尚子と栄治。電話をしている尚子。

 

尚子    あぁ、わかった。私達もそっちに行くわ。あなたは安全な場所に隠れてるのよ。

 

 尚子、電話を切る。

 

尚子    大変よ、マシューがさっきの女に殺されるかもしれない。助けにいかなきゃ。

栄治    俺の知ったことじゃない!

尚子    どうして!彼はもう私たちの家族じゃない!

栄治    あいつらはまだ結婚してない!それに、もうあいつの顔を見たくない。

尚子    ・・・親戚に殺し屋がいるってのがそんなに嫌なわけ?

栄治    当り前だろう!俺は市民を守る警官だ。身内に人殺しが居るって知られたら・・・どんな目で見られるかわかったもんじゃない。

尚子    あんた、いつからそんな小さい男になったの。人の命がかかってるのよ、あなたが行かなかったら、一人の市民が死ぬかもしれないのよ!あなたそれでいいっていうの?

栄治    そんなこと、

尚子    殺そうとしてるのはあの女よ。それを止められるのは、警官であるあなたしかいないの。

もし行かなかったら、マシューを見殺しにしたも同然よ。それだけじゃない。ゆきちゃんは一生悲しむわ。

栄治    ゆきが・・・!

尚子    栄治!

 

 少しの、間。

 

栄治    俺は一度派出所に行く。お前はパトカーを呼んでくれ。

尚子    わかった。

 

 栄治、尚子、退場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン11 愛のために

 

 ゆきの家。縄と口にテープを貼られ、身動きが取れないゆき。その横にソフィア。

 

ソフィア  あと10分か。マシューは来てくれるのかしらね?

ゆき    (喋れない)。

ソフィア  まさか、逃げたのかしら?そんなわけないわよねぇ、愛するあなたのためだもの。でもね、殺し屋だって自分の命は惜しいのよ。もし来なかったら、あなたは愛されていなかった、ってことになるかしら?一人で死ぬのって怖いわよねぇ、あははは。

ゆき    ・・・・・

 

 その時、扉が開く音がする。

 

ソフィア  来たわね。最後に二人きりにしてあげる。

 

 ソフィア、退場。

 間。マシュー部屋の中へ。捕らえられているゆきを見つける。

 

 

マシュー  ゆき!

ゆき    !

マシュー  ゆき、今離してやる。ちょっと待ってくれ。

 

 マシュー、ゆきを拘束している縄やらを外す。

 

ゆき    マシュー!

 

 ゆき、マシューに抱き着く。

 

マシュー  すまない、遅くなった。

ゆき    来てくれるって信じてた。

マシュー  見殺しになんてしないさ。さぁ、君は早くここから逃げるんだ。

ゆき    あなたは来ないの?

マシュー  俺はヤツを始末する。君だけでも早く逃げろ。

ゆき    だめよ!一緒に逃げるのよ!一人で逃げるなんて嫌!

マシュー  ゆき、このまま二人で逃げても、ヤツは必ず追ってくる。どのみち俺たちを殺すつもりだ。だから、片づける。これが最後の掃除だ。

ゆき    嫌!ここに居たらあなたが殺される。お願い、一緒に逃げて!

マシュー  俺は絶対に死なない。信じてくれ。始末したら俺もついていく。すべてやり直す。

      3人で幸せに暮らそう。誰にも邪魔されない場所で。

ゆき    ウソじゃないわよね?

マシュー  本気だ。君は俺に生きる望みを、幸せの意味を教えてくれた。

ゆき    マシュー・・・

マシュー  さあ、先に逃げろ。30分後に電話をしてくれ。また落ち合おう。行ってくれ、行くんだ!

ゆき    ・・・わかった。

マシュー  愛してる、ゆき。

ゆき    私もよ、マシュー。

 

 ゆき、決心したように逃げ出す。

 

マシュー  ソフィア!どこに隠れてる、出てこい。撃てるもんなら撃ってみやがれ!どうした、ビビッて出て来れねぇのか?上等だ!

 

 マシュー、銃を構えてあたりを見渡す。間。すると袖からサイレンサー付きの拳銃が伸びてくる。

 気配に気づいたマシュー、銃を構える。

 

 暗転。サイレンサー付きの銃声。

 

ソフィア  あは、あはははは、あははははははははは。

 

 照明つく。ソフィアが笑っている。マシューが倒れている。

 

ソフィア  マシュー、甘かったわね。あなたに私は殺せないわ。

 

 ソフィア、マシューに足を乗せる。そして頭に銃を向ける。

 

ソフィア  さようなら。

 

 と、その時、浩が勢いよく部屋に入ってくる。

 

浩     うわあああああああああああああ!!!!!!!

 

 浩、ソフィアに飛び掛かる。態勢を崩されたソフィア、倒れる。

 

ソフィア  な、何をする!離せクソガキ!

 

 浩を振り払おうとするソフィア。浩、ソフィアの銃を持っている手を弾き飛ばす。銃がはじかれ

る。栄治、尚子、ゆきも部屋に入ってくる。

 

ゆき    マシュー!

 

 マシューに駆け寄るゆき。

 

栄治    浩!そいつから離れろ!

 

 拳銃を構えている栄治、ソフィアに近づき手錠をかける。浩はマシューに駆け寄る。

 

栄治    現行犯逮捕だっ!殺人鬼!

 

 マシューをさするゆき。すると、マシューが目を覚ます。

 

ゆき    マシュー!

マシュー  ゆ、き?

ソフィア  離せ!離せっつってんだちくしょう!

尚子    あんた、連れて行くわよ。

栄治    ああ。

 

 ソフィアを連れてはけようとする2人。栄治が足を止める。

 

栄治    マシュー、今日あったことは全部忘れてやる。ただ、もう二度と俺の前で銃を出すな。

 

 栄治、尚子、退場。

 

浩     マシュー!

ゆき    大丈夫?しっかりして!

マシュー  あ、あぁ。大丈夫だ。

ゆき    あなた、胸を撃たれてるの!?

浩     いやだ!死なないで!死なないでよ!マシュー!

マシュー  あんまり、騒ぐな。体には当たってない。

浩     え?

マシュー  ただ、プレゼントに傷がついたかもな。

 

 マシュー、コートの内側から指輪の箱を取り出す。

 

マシュー  ハッピーバースデー、ゆき。

ゆき    え、これ、私に?

 

 箱を受け取るゆき。開けるとそこには指輪が。

 

☆ゆき   !

☆浩    !

マシュー  その、婚約指輪ってやつだ。もし合わなかったら、買いなおす。

ゆき    マシュー、あなた・・・

 

 涙ぐむゆき。指輪をはめる。

 

ゆき    ぴったり・・・

マシュー  あぁ、それはよかった・・・

 

 マシュー、ゆっくりと目を瞑る。

 

浩     マシュー!マシュー!

ゆき    マシュー!目を開けて!目を開けてよ!!!

 

 暗転。音響大きくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン12 おしまいとはじまり

 

 後日。映画館。浩が入ってくる。

 

浩     ねぇねぇ、早く早く!

 

 ゆき、入ってくる。

 

ゆき    そんなに焦らなくても、まだ時間はあるわよ。

 

 マシュー、入ってくる。

 

浩     だって、早くいい席取りたいじゃん。

マシュー  この時間なら、客はほとんどいない。焦らなくて大丈夫だ。

浩     わかんないよ?実は満杯かもしれないし。

ゆき    大丈夫だって。

浩     俺先に行ってるよ。三人分の席確保しとくね!

 

 浩、退場。

 

マシュー  全く。

ゆき    ありがとうね、今日は。

マシュー  約束だからな。

ゆき    食事もおいしかった。ていうか、あなたお肉食べるのね。

マシュー  そりゃあそうさ。改めて、誕生日おめでとう。

ゆき    ありがとう。

マシュー  似合ってるな、その指輪。素敵だ。

ゆき    あなたが選んだんでしょう?

マシュー  そいつのお陰で、助かった。

ゆき    愛の力かしらね?

 

 笑い合う二人。その様子を少し離れたところから見ている冨樫。マシュー、冨樫に気づく。

 

マシュー  ゆき、ちょっと先に入っててくれないか。一人で待たせるのはかわいそうだ。

ゆき    えっ。

マシュー  ジュースを買ってすぐ行くから。

ゆき    わかった。

 

 ゆき、退場。冨樫、マシューに近づく。

 

冨樫    おめでとう。やっと幸せになれるね。

マシュー  ありがとう。

冨樫    俺は何もしてないさ。すべて君が選んだことだ。

マシュー  お前が出してくれなければ、こうはならなかった。

冨樫    そうだな。実はな、今日で終わりなんだ。「Matthew」の上映。

マシュー  もう映画には戻れないってことか。

冨樫    戻るつもりもないんだろ?

マシュー  ああ。

冨樫    そっか。終わりってのは、切ないもんだな。役者やスタッフが何か月も必死に作ってきたものが、アッと言う間に消えちゃうんだからさ。そのうち人の記憶からも消えるんだよ。

マシュー  DVDにならないのか。

冨樫    なるわけないだろ、人気の欠片もないんだから。結局今日も誰も来なかったよ。それに、映画の登場人物は死んだし。はぁ、お蔵入りだよ。二度と日の目を見ることはないさ。

マシュー  そうか。

冨樫    まあ、後悔はしてないさ。この映画を作ったこと。君が映画以上に面白いものを見せてくれたからね。

マシュー  !どういうことだ。まさかお前。

冨樫    さようならマシュー。君を産んでよかった。

 

 冨樫、消える。

 

マシュー  あ、おい!

 

 マシュー、冨樫の出て行った方を眺めている。間。浩、やってくる。

 

浩     マシュー、何やってるんだよ。そろそろ予告編始まっちゃうよ。

マシュー  ん、ああ。悪かった、今行くよ。

浩     どうしたの?ぼーっとして。

マシュー  いや、なんでもない。さ、今夜は楽しむぞ!

浩     母さん待ってるよ、行こ。

 

 マシュー、浩、劇場に入る。

 

                                           おわり

お疲れ様でした。高校演劇にもよく話しているのですが、演劇に正解はありません。一人の意見があると十人十色です。ですので、取捨選択していただけると幸いです。

その上で、いくつか気づいたことをお伝えします。

・ティピカルストーリーを意識してみる

下記のストーリーを書き起こすことを心掛けましょう。自然とストーリーが整理されていきます。

※全て一行で表現します。

1、あるところに……。

2、毎日毎日……。

3、ある日……。

4、そして……。

5、しかし……。

6、そして……。

7、しかし……。

8、そして……。

9、しかし……。

10、ところが……。

11、そして(そのおかげで)……。

12、そして最後に(その日以来)……。

・ドラマの立ち上がりはお早めに

キーとなるド事件を起こすことが大切です。そのためにはゆきが何を思い、マシューがどう考えたのかが大切です。

・点ではなく線で

エピソードは点ではなく、一本の線として意識しましょう。結論に向けて用意周到に伏線を張りましょう。偶然ではなく必然として仕組みましょう。

『演劇と教育』に掲載された「更に面白い作品にするために」を添付します。参考にしていただけますと幸いです

末筆になりますが舞台の成功をお祈りしております!