劇作家相馬杜宇のOfficialBLOG

32歳、脳出血発症中!劇作家の相馬杜宇がホッピー、コンテンツSEO、病院の不可解さについて語るブログです。

【ショート劇場⑤『殴り込み』】

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あの、『殴り込み』が帰ってきた!

『殴り込み』

○登場人物

大木清将(おおききよまさ) 四九歳。星岡組若頭。

及川美雪(おいかわみゆき) 二一歳。保育士。あすなろ保育園勤務。せいなの担任。

棚橋留美子(たなはしるみこ) 三一歳。保育士。あすなろ保育園勤務。主任。

  ー0ー

  冬のある朝。

  あすなろ保育園の門の前。

棚橋留美子と及川美雪が登園してくる子供たち、保護者を迎え入れつつ、出席をチェックしている。

  留美子はキティーちゃんのマークが入ったエプロンをしている。

  やがて登園の波が途切れる。

留美子 どう?

美雪 (出席簿を見て)全員来ました!

留美子 いいねえ。

美雪 あっ…

留美子 …?

美雪 せいなちゃんは(来てない)…

留美子 来ないよ。

美雪 届いてないんですよね、退園届け。

留美子 いや無理でしょ。

美雪 保育園楽しいって言ってくれてたんですけど…

留美子 親選べないしねえ、子供は。

  留美子、門を閉める。

  園庭で何らかのトラブルが起こる。

美雪 (トラブルの起こっている方向に向かって)あ、ちょっと、駄目駄目。

留美子 行かないと。

美雪 え?

留美子 ここで言ってたって意味ないでしょ。はーい、人が嫌がることしなーい!

  留美子、トラブルを止めに向かう。

美雪 やめようねー。

  美雪、後に続く。

  ー1ー

  同日、午後。

  大木清将が園内に向かって呼びかけている。

大木 すいません! …すいません! …お願いします! …すいません!!

  美雪、やってくる。

美雪 大きい声出さないで下さい。

大木 出てきてもらえなかったものですから。

美雪 お昼寝の時間なんで…

大木 失礼しました…

美雪 どういったご用件でしょうか?

大木 私、三井せいなの身内の者なのですが、

美雪 身内?

大木 父親の上司です。

美雪 上司!?

大木 園長先生お願い出来ますでしょうか?

美雪 出張に行っておりまして…

大木 何時頃お戻りに?

美雪 今日は戻らない予定でして…

大木 そうですか…

美雪 何かありましたら、

大木 (遮り)副園長先生は?

美雪 あー、副園長も…

大木 出張?

美雪 あの、お電話でお願いし、

大木 (遮り)ベテランの先生お願いできますか?

美雪 ……(園舎のほうを見る)

大木 (園舎に向かって)お願いします!

美雪 お静かに!

大木 …(園舎を見て、ひとりごちる)首振ってんじゃねえよ。

美雪 バタバタしてまして…

大木 お昼寝中なんでしょ?

美雪 やること多いんですよ、連絡帳の記入とか、

大木 (大したことじゃないという風で)連絡帳の記入ねえ…

美雪 グズる子もいますし…

大木 ふーん……

美雪 ……。

大木 若い子に押しつけてよぉ…

美雪 …?

大木 可哀想にな。

美雪 …私?

大木 そうだよ。

美雪 何かありましたらお電話でお願いします(と言って立ち去ろうとする)…

大木 泣いてるっつうんだよ、

美雪 (立ち止まって)せいなちゃん?

大木 美雪先生会いたいって。

美雪 え?

大木 担任の先生好きらしくて。

美雪 ウソぉ?

大木 ウソなわけねえだろ、何でウソつくんだよ。あ、そうだ、担任の先生呼んでくれよ。

美雪 私です。

大木 美雪先生?

美雪 はい!

大木 何やってんだよ!

美雪 え…?

大木 泣かせちゃ駄目だろ。

美雪 いやぁ…

大木 担任だろ?

美雪 ぺーぺーなんで…

大木 何も悪くねえだろ、せいなは。

美雪 ですよね…

大木 ヤクザヤクザってよぉ、娘はヤクザじゃねえだろ。

美雪 ……。

大木 あっ……

  大木、鼻血が出る。

美雪 え、大丈夫ですか?

大木 大丈夫、大丈夫。

  美雪、エプロンのポケットを探る。鼻をかんだ後のティッシュがいくつ  かこぼれ落ちる。まもなくポケットティッシュを見つけて、大木に渡す。

大木 すまん。(ティッシュを受け取るが、使わない)

美雪 (鼻に)詰めたほう良くないですか?

大木 このほうが早く止まんだよ。

美雪 ええ?

大木 しょっちゅうだし。

美雪 しょっちゅう? 鼻血?

大木 うん。

美雪 …血の気多いんですね、やっぱり。

大木 やっぱりって何だよ。

美雪 いや…、こっち(筋者)の方は。

大木 関係ねえよ。うちの組穏健派だし。

美雪 ん? 何ですか?

大木 もう五年暴力事件起こしてねえんだぞ。

美雪 え、じゃあ何やってるんですか、普段。

大木 …色々だよ。

美雪 シャブ売ったり?

大木 クズだろ。

美雪 え、何?

大木 飲食店とかよぉ…

美雪 襲撃?

大木 だから穏健派だって、

美雪 ぼったくり?

大木 パクられんだろ。

美雪 窃盗?

大木 何でだよ。

美雪 パクるって。

大木 パクられる。逮捕されんだろ。

美雪 え、そんなこと気にしてんですか、ヤクザなのに。

大木 当たりめえだろ。

美雪 サツがなんぼのもんじゃい、サツが。

大木 …?

美雪 って感じなのかなぁーって。

大木 映画じゃあるめえし。

美雪 あれ、いいですよね。

大木 何だよ。

美雪 仁義なき戦い

大木 渋いな。

美雪 (『仁義なき戦い』の真似)弾はまだ残っとるがよぉ、一発残っとるがよぉ。…カッコいいっ!

大木 おめえどこで観たんだよ、観ねえだろ、普通、おめえの歳で。

美雪 薦められて。

大木 親父さん?

美雪 おっちゃんに、炊き出しの。

大木 炊き出し?

美雪 豚汁作ってくれて、震災ん時。

大木 おめえ出身は?

美雪 陸前高田って分かります?

大木 分かるよ! あそこも大変だったって言うな。

美雪 家流されちゃいました。

大木 そうかぁ……

美雪 まあでも家族無事だったんで。

大木 (やたらと親身になって)良かったなぁ…

美雪 ? はい…

  少しの間

大木 行ったんだよ、俺も。石巻

美雪 何しに?

大木 炊き出し。

美雪 ウソでしょ。

大木 ホントだよ、カレー作ってよぉ…、喜ばれたなぁ……、腰曲がったばあさん二回おかわりしてくれてよぉ…

美雪 え、めっちゃいいヤクザじゃないですか。

大木 そんなんじゃねえよ。

美雪 てかヤクザじゃないんじゃないですか?

大木 いやいや、弱きを助け、強きを挫く。

美雪 どういうこと?

大木 おめえ先生だろ。

美雪 使わないし。

大木 弱い人助けて、威張り腐ってる奴懲らしめるっていう。

美雪 ヤクザ関係なくない?

大木 任侠道だよ。

美雪 ああ!

大木 まあ普段はアレだけどな。

美雪 アレ?

大木 シノギあるし。でも非常時ん時くらい、お役に立たねえとよぉ。

美雪 ふうん…

  少しの間

  大木、鼻に手をあてて鼻血が止まったか確かめる。

美雪 止まった?

大木 …ああ。

  美雪、地面に落ちた使用済みティッシュを拾う。

大木 汚えなあ。

美雪 捨てる暇なくて。

大木 そんなこたねえだろ。

美雪 三十人見てんですよ。

大木 三十人?

美雪 一人で。

大木 大変だな。

美雪 少子化とか絶対嘘だし。

大木 先生増えねえのかよ。

美雪 無理っすよ。

大木 何で。

美雪 安いんで、給料。

大木 いくら。

美雪 十六万、手取りで。

大木 ああ…

美雪 あり得なくないですか?

大木 でも入ってんだろ、保険。

美雪 入ってるわけないじゃないですか、

大木 そりゃひでえな。

美雪 生命保険なんか。

大木 社会保険

美雪 ? ま、シャホは(入ってる)…

大木 マシだよ。俺なんか医者かかれねえし。

美雪 はあ?

大木 保険証ねえし。

美雪 何威張ってんすか。

大木 威張ってねえよ。

美雪 何やってんすか、親分。

大木 若頭な。

美雪 若くないのに?

大木 そういうんじゃねえし。

美雪 てっきり親分だと。

大木 おめえタメ口じゃねえかよ、さっきから。

美雪 え、だって…

大木 ぶっ飛ばされんぞ、親分なら。

美雪 そんな怖いの? ですか?

大木 …女には甘いけど…

美雪 たらしかよ。

  少しの間

美雪 親分じゃないんだ…

大木 何で。

美雪 (他の先生たちが)親分なんじゃないかって。太ってるし。

大木 そこかよ。今ムショ入ってて…

美雪 何やったの?

大木 車検頼んだだけだよ。

美雪 何それ?

大木 普通に、車検してくれって、整備会社に。

美雪 タダでやれとか?

大木 まさか。ちゃんと金払うっつってんのに、「ヤクザはちょっと」って…

美雪 グサッと(刺した)?

大木 怒鳴っただけだよ。

美雪 (『仁義なき戦い』の真似)飯食えんような身体になってもらいますけん!

大木 …?

美雪 仁義、仁義。

大木 (親分の真似をして凄む)てめえどうなるか分かってんのか!?

美雪 (ビビっている)!?

大木 って。

美雪 あ、それちょっと怖いかも…

大木 でも脅迫か?

美雪 脅迫じゃないすか?

大木 ……。

  少しの間。

大木 考え直してもらえねえかな?

美雪 (『仁義なき戦い』の真似)わしら、どこで道間違えたんかの…

大木 ……。

美雪 あ、仁義、仁義。

大木 担任だろ?

美雪 …言われるんすよ、何か言おうとすると、「ああ、あなたはいいから」って。

大木 ろくでもねえな。

美雪 まあ感覚で喋る癖あるんであれなんすけど。

  少しの間

美雪 組どこすか?

大木 星岡組。

美雪 (あたし)タンポポ組っす。

大木 そうか、おめえも組預かってんのか。

美雪 そうっすよ。

大木 大変だよなぁ、組守るって。

美雪 ホント分かる!

大木 若え奴が悪さすると全部責任負わなきゃなんねえし。

美雪 めっちゃ分かる!!

大木 分かるか!

美雪 分かりますよ!

大木 苦労してんだなぁ、おめえも。

美雪 こっちの台詞っすよ、若頭!

二人、肩を叩くなどして労を労い合う。

美雪 盃交わしちゃいますか、いっそ!

大木 え?

美雪 入りますよ、星岡組。

大木 …。

美雪 なんちゃって…

大木 ……。

美雪 ?

大木 組辞めそうなんだよ、三井。

美雪 三井?

大木 せいなの…

美雪 ああ、パパ!

大木 (三井の真似)「俺、ホント、せいなに顔向け出来ないっすよ」って…

美雪 パパとしては辛いとこだよねえ…

大木 まあ辞めんのは仕方ねえけどよ。

美雪 そうなの?

大木 最悪。けどよぉ、仕事ねえと思うんだよ。(両腕を示し)入ってるし、びっしり。

美雪 入れ墨すか?

大木 前科あるしよ。

美雪 何?

大木 シャブ売って。

美雪 クズっすね。

大木 でも何もなかったらよぉ…、クズやるしかねえだろ、また。

美雪 ええ?

大木 しょうがねえだろ、食わさなきゃなんねえし、せいな。

美雪 …エグいっすね。

  留美子がやってくる。マスクをしている。

留美子 (美雪に)いつまでかかってんの?

美雪 (今さら留美子に気づく)あっ…

大木 (留美子を見て)あれ…?

留美子 (大木に)殴り込みですか?

大木 お願いしてるだけですよ。

留美子 受け入れたいのは山々なんですけど、警察からうるさく言われてるんですよ、免許取り上げるって。

大木 でも入園させたんでしょう?

留美子 分からなかったので。

大木 分からなかった?

留美子 こっち(スジ者)の方とは…

大木 …。何とか通わせてやってくんねえか。

留美子 他の親御さんからも要望されてまして…

大木 娘はヤクザじゃねえだろ。

留美子 いやぁ、でも警察がですねえ…

大木 何が警察だよ! 子供の人権の問題だろ? (思わず声が大きくなる)せいなに罪ねえだろうが!

留美子 じゃあ警察呼びます?

大木 はあ!?

留美子 (美雪に手を差し出し)貸して!

美雪 ……(ポケットからICレコーダーを取りだし、留美子に渡す)

大木 (留美子)何もしてねえだろ。

留美子 脅迫じゃないですか。

大木 脅迫!? (美雪に)これ脅迫か?

美雪 私は怖くないです。

大木 …。(留美子)どこが脅迫なんだよ!

留美子 それ。(美雪に)戻っていいよ。

美雪 え、でも…

留美子 まだでしょ、連絡帳。

美雪 まあ…

留美子 大丈夫だから。

美雪 でも…

留美子 いいから。

美雪 はい…

美雪、園舎に戻ろうした時、園舎の入り口に昼寝から起きた園児が立っていることに気づく。

美雪 (園児に向かって)あれ? 起きちゃった? ちょっと待ってねー、留美子先生今大事なお話してるからねー。

大木 やっぱそうだよな。

美雪 …?

大木 おめえ留美子だろ、レディースやってた。

美雪 レディース?

留美子 何のことですか。

美雪 やってた?

大木 長いスカートはいてよぉ、チェーン振り回してたじゃねえか。

美雪 ヤンキー!?

留美子 人違いですよ。

大木 彫り師紹介したろ、キティちゃんのタトゥー入れたいっつって。

留美子 変な言いがかりつけるのやめてもらえます?

  パトカーのサイレンが近づいてくる。

美雪 え、もう…?

留美子 呼んどいた。

大木 (パトカーに向かって)鳴らすんじゃねえよ、お昼寝中だぞ!

  大木、パトカーの方へ向かう。

  まもなくパトカーのサイレンが止まる。

  美雪、留美子の身体をジロジロ見る。

留美子 何…?

美雪 どこですか、キティ。

留美子 信じてんの?

美雪 好きじゃないですか。

留美子 ヤクザだよ。

美雪 でも…

留美子 ホントいい迷惑…

美雪 あたし頼んでみます、園長先生に。

留美子 何を?

美雪 せいなちゃん通わせられないかって。

留美子 はあ!?

美雪 せいなちゃんに罪ないし。

留美子 馬鹿?

美雪 泣いてるって言うし…

留美子 評判だよ、今年の新人マジ使えないって。

美雪 ……。

  留美子、パトカーの方へ向かう。

美雪 (ボソッと)意味分かんね…

  美雪、さっき昼寝から起きていた園児に呼びかけられる。

美雪 (園児に)あっ、ごめんねー。…おっ、拳銃ごっこ? (撃たれたフリ)うおぉ…、やるな、おどれ…弾はまだ残っとるがよぉ、一発残っとるがよぉ…バーン! 

  美雪、園児に向かって銃を撃つフリをする。